研究実績の概要 |
一般的な鉄鋼材料では,加熱中に発現するbcc⇒fcc変態は原子の再配列を伴いながら高温で生じるため,転位等の格子欠陥はほとんど導入されない.このため,適切な合金設計を行うことで原子の拡散が起こりにくい温度までbcc⇒fcc逆変態温度を低下させ,せん断型逆変態・正変態を繰り返すことで,変態歪を蓄積させて結晶粒微細化を実現することを目指した. 実験には、Fe-18Ni, Fe-18Ni-0.1C, Fe23Niの三種類のFe-Ni-C合金を用いた.このうち,Fe-23Ni合金とFe-18Ni-C合金はほぼ同じMs点を持ち,熱力学因子以外の炭素添加の影響を調査できる.これらの合金を均質化後焼き入れして初期マルテンサイト組織を得た.その後20K/sで650℃まで加熱した後、直ちにガス冷するサイクルを繰り返して組織変化を調査した. Fe-18Ni合金では,1サイクルによって組織は数um程度に微細化するが,その後サイクル数を増やしても粒径はほとんど変わらない.一方,Fe-18Ni-0.1C合金では,繰り返し変態によって組織は著しく微細化し,10サイクル後には1um以下の超微細マルテンサイトが得られることが明らかとなった.Fe-18Ni-0.1C合金とほぼ同じMs点を有するFe-23Niで同様の実験を行ったところ,繰り返し変態によって組織は微細になるものの,その傾向はFe-18Ni-0.1C合金ほど顕著ではなく,Fe-18Ni合金とほぼ同様であった.このことは,C添加による熱力学的因子以外の影響が繰り返し変態の組織微細化を促進することを意味している. 繰り返し変態材の組織を詳細に調べたところ,C添加材では元のマルテンサイトに対して特定の結晶方位関係を持たないオーステナイトが生成していることから,転位蓄積に加えてオーステナイトの再結晶が促進されることが組織微細化の一因であると考えられる.
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