本研究では,焦点付近において特異な集光特性を有する軸対称偏光ビームを用いたレーザー誘起転写法(LIFT)により,10 nmオーダーの配線や素子で構成される極小集積回路の作製を目的に研究を行った. 本研究遂行にあたり,まず先行研究を参考にしてLIFTのための実験装置を構築し,30nmのクロム薄膜を対象としてガウスビームを用いたLIFT実験を行った.最適レーザーフルエンス条件においてクロムドットの位置選択的直接描画に成功するとともに,用いたレーザーの優れたビーム品質とレーザー光のアライメント精度に起因して,形成されたクロムドットの大きさは先行研究にて報告されているものに比べて約1/2程度の150nmであった. 当初の予定では軸対称偏光ビームを用いたLIFTにより,焦点スポットサイズを低減しそれによって形成される微細構造のサイズ低減化を試みる予定であったが,焦点において軸対称偏光ビームを位相を制御して集光することが困難であったため,シミュレーション結果から同様に焦点スポットサイズの低減に効果が見られる円環ビームを採用し,LIFT実験を行った. 円環ビームはガウスビームの中央にマスクを設置することによって形成した.円環ビームを用いた集光実験では,光軸方向の加工領域の伸長と焦点スポットサイズの低減が確認され,計算により予測された集光強度分布とよく一致する結果が得られた.また,円環ビームを用いたLIFTでは,最適レーザーフルエンス条件において約60nm程度のクロムドットの直接描画に成功した.本研究により作製したクロムドットは,LIFTを用いた直接描画により形成される世界最小の微小構造体である. 一方,LIFTによってキャリアフィルムのレーザー照射領域に変形が見られたため,本手法を用いた二次元・三次元構造の構築のためにはキャリアフィルムと基板を独立して走査するシステムが必要であることがわかった.
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