研究課題/領域番号 |
25630322
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
山中 晃徳 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (50542198)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | フェーズフィールド法 / データ同化 / 鉄鋼材料 / ミクロ組織 |
研究概要 |
本研究では、マルチフェーズフィールド(MPF)法を用いた鉄鋼材料のミクロ組織形態の形成シミュレーションの予測精度を実験データに基づき飛躍的に向上させる逐次データ同化手法を構築することを目的としている。特に、鉄鋼材料の製造工程で形成され、材料強度を支配する最も基本的かつ重要なミクロ組織であるFe-C合金中のフェライト相の形態とその時間変化を定量的に予測するための最適なデータ同化アルゴリズムの検討、データ同化を行うために必要な実験データセットの取得を行っている。 平成25年度においては、当初計画の通りに研究を推進した。MPF法と逐次データ同化法を用いて、Fe-C合金におけるオーステナイト→フェライト変態の高精度な予測結果を得るためには、MPFモデル自体の計算精度が高く、実験結果と比較できる情報を多く生み出す方が好ましい。そこで、過去の研究で構築してきたFe-C合金のオーステナイト→フェライト変態MPFモデルにマイクロメカニクスによる応力場解析を導入し、フェライト相の形成に伴う炭素濃度場と応力場の変化を解析可能とした。なお、これによる計算コストの増大という問題を解決するために、Graphics Processing Unit(GPU)による並列計算法を適用した。また、最適化法や逆問題を専門とする研究者とのディスカッションを通じ、MPFシミュレーションの予測精度を向上させる逐次データ同化アルゴリズムの検討を行い、粒子フィルターが最適であるとの結論に達し、MPF法への適用を開始した。 さらに、MPFシミュレーションに逐次データ同化を適用し、予測精度を向上させるためには、正確に測定された実験データが必要となる。Fe-C合金の熱処理実験およびミクロ組織観察を実施し、次年度の研究の基礎データとなる実験データを取得・蓄積した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度の研究計画では、(1)Fe-C合金におけるフェライト変態の3次元MPFモデルの改良と(2)逐次データ同化に用いるミクロ組織因子の時間変化データの取得を行うことを計画した。 (1)については、上記で述べたように逐次データ同化法を用いて、高精度なシミュレーション結果を得るためには、MPFモデルの計算精度が高く、低い計算コストで、実験結果と比較できる情報(フェライト相分布、溶質濃度分布、応力・ひずみ分布など)をできる限り多く取得できる方が良い。特に、フェライト変態挙動を実験的に測定する一般的な方法として、熱膨張計を用いて材料の熱膨張曲線を取得する方法がある。この方法により、材料の加熱・冷却時の体積変化からフェライト相の体積分率変化を測定することができる。ただし、この実験結果との比較を行うためには、MPFシミュレーションでも熱膨張曲線を計算する必要があるが、過去の研究で構築したMPFモデルにおいては、熱膨張曲線を計算することができなかった。そのため今年度の研究で、上記MPFモデルにフェーズフィールド微視的男性論による応力場の計算アルゴリズムを導入し、フェライト変態に伴う応力場の発展と体積変化の解析を可能とした。 (2)については、逐次データ同化を用いて、シミュレーションの予測精度を飛躍的に向上させるためには、データ同化に供する確度の高い実験データができる限り多い方が良いとされる。そこで今年度の研究では、熱膨張計を用いて炭素鋼の加熱・連続冷却時におけるフェライト変態挙動を測定するとともに、ミクロ組織観察を行い、フェライト相の結晶粒径と体積分率の時間変化の実験データを取得した。また、フェライト相の結晶粒径の正確な測定のため、シリアルセクショニングによるフェライト相形態の3次元観察を行い、次年度に行うMPFシミュレーション結果との比較のための重要な実験データを得た。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度の研究により、鉄鋼材料のオーステナイト→フェライト変態によるフェライト相分布、溶質濃度分布、応力場の時間変化のMPFシミュレーションを可能とするとともに、データ同化に必要な実験データの蓄積を行った。平成26年度の研究においては、実験データを取り込むための観測モデルを構築し、 データ同化に必要な状態空間モデルを完成させる。データ同化手法には、数多くのアルゴリズムが提案されているが、本研究では適用範囲の高い粒子フィルターを用いた逐次データ同化解析のための基盤構築を行う。さらに、逐次データ同化を適用していない従来のMPFシミュレーションと比較し、フェライト変態挙動の予測精度の向上を検証する。これにより、本研究の最終目標である、従来のMPF法では本質的に再現することのできない核形成挙動の高精度なモデリング方法の提案や実験データを正確に再現するためのパラメータ同定手法を確立する。
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次年度の研究費の使用計画 |
国際会議の参加のための、海外出張旅費を他予算から支払ったため、次年度使用額が生じた。 次年度使用額については、データ同化に必要な実験データ取得ための実験消耗品の購入に使用する。
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