研究課題/領域番号 |
25630348
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
飯村 健次 兵庫県立大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (30316046)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 光触媒 / 無機機能材料 / 繊維 |
研究実績の概要 |
平成25年度については、既報の通り色素増感太陽電池光電極への酸化チタン繊維の適用を試み、性能は決して高くないものの簡易な光電極作製法としての可能性を示すことが出来た。平成26年度については、予定の通り、リン酸銀繊維の作製とその性能評価に取り組んだ。ゾル‐ゲル法により紡糸液を調整し繊維を得るプロセスであることに由来し,紡糸直後の繊維に多数の未反応基を含有していることにある。具体的にシリカ繊維を紡糸する課程を例に挙げるならば,シリコン源であり出発原料でもあるテトラエトキシシラン(TEOS)由来のエトキシ基がシリコン元素に対してモル比で約2倍量含まれている。シリカ繊維を作製する場合はこの未反応基は,水蒸気処理等により水酸基で置換し除去するが,この未反応基に更なる末端基を付加させることが可能であり,リン酸により処理することでリン酸基を導入した。導入したリン酸基に対して,銀イオンを付加し,リン酸銀を表面に析出させた。得られた析出物は黄色を呈したが、可視光による有機物分解や水素発生は見られなかった。しかしながら、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸等のカルボン酸を犠牲剤として用いることで可視光照射下での有機色素の分解に成功した。また、カルボン酸の分子量が高いほど分解の効率は高く酪酸が最も優れた犠牲剤であることを確認した。水素の生成については、現時点では確認できておらず、次年度以降の検討課題とした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度については、酸化チタン繊維の色素増感太陽電池光電極への応用を目的に研究を行った。既報の通り、助剤として用いるテトラエトキシシランの添加量が多い場合、繊維の質感は向上するものの表面電位が負となりルビジウム系の色素が吸着しなくなり発電効率が極端に低下することが分かった。これを改善するため助剤添加量を極力提言することで、正の表面電位を維持し、効率は低いものの簡易なセル製作法により太陽電池として機能することを示し、一定の成果を挙げることが出来た。平成26年については、開発した手法の特色である未反応のエトキシ基を積極的に利用し、シリカ繊維の表面にリン酸銀を担持させ光触媒として応用することを目的とし研究を行った。ゾルゲル法において未反応の末端基を利用して更なる機能化を図ること自体が新しい試みであり、先駆的な手法開発といえる。結果として、シリカ繊維をリン酸で処理することで、リン酸基を導入することに成功し、さらにイオン交換を行うことでリン酸銀を析出・担持させることに成功したことは大きな意義を持つ。また、得られた繊維の光触媒能を検証した結果、残念ではあるが析出したリン酸銀は単独では可視光照射下で有機色素を分関する能力を有さないことが明らかとなった。ただし、カルボン酸を犠牲剤として用いることでその分解性能は飛躍的に増大し、可視光照射下において現行の光触媒の数倍の分解効率を持つことを明らかにした。このような取り組みはこれまでなく、環境浄化材料ならびに水素発生能についても期待できることからエネルギー関連材料としての大きな可能性を示すことが出来たという点において目標としたスケジュールの達成度として概ね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度においては平成26年度において達成したリン酸銀担持シリカ繊維の可視効果での水素発生効率について検証を行う。必要に応じ犠牲剤を用いその種類や濃度が水素発生量に及ぼす影響を検討する予定である。また、新たな系としてプロトン導電性繊維の作製とその性能評価を行う。リン酸銀担持繊維を開発する段階でテトラエトキシシラン由来の未反応エトキシ基をリン酸により置換しうることを明確に見出した。このような反応過程はリン酸に限るものではないことは明白であり、他の酸でも同様の交換反応が起こるはずである。より具体的には、濃硫酸を用いることで繊維にスルホン酸基を導入し、プロトン伝導材料となりうるかについて検証を行う。濃硫酸がシリカ繊維内に導入されたかについては赤外分光分析により検証を行う予定である。ナフィオンを例とする固体高分子膜は優れたプロトン導電性を有する一方で、高価であることならびに、耐化学特性に難があることが大きな問題として残る。シリカを主成分とするプロトン導電繊維を得ることができれば、強靭で耐熱・耐薬品性に優れる膜を容易に生産できることを意味し、産業的なインパクトは非常に大きいと言える。繊維形状であることは、プロトン導電の際に導電パスが必ず確保されていることを示し、0次元である粒子を混練する場合と比較して飛躍的な性能向上が期待できる。性能については、得られた繊維をガスバリア性の高い樹脂により固定化し膜とすることでセパレータとし、燃料電池評価用セルを実際に組むことで発電性能を評価する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
概ね当初利用予定額に近い実使用状況にあるが、当該年度に学会発表を行わなかったため旅費として算定した額が未使用となり若干の過不足が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度に倉敷にて学会発表ならびに学会英文誌特集号への投稿を予定しておりそちらに充足したいと考えている。
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