研究課題/領域番号 |
25630352
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
多湖 輝興 北海道大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (20304743)
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研究分担者 |
増田 隆夫 北海道大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (20165715)
中坂 佑太 北海道大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (30629548)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 化学工学 / 触媒・化学プロセス |
研究概要 |
分子ふるい能と固体酸性を有するゼオライトは,形状選択的触媒として広く利用されている.さらに,イオン交換サイトにヘテロ原子を導入することで,ゼオライトに水素化能を賦与することができる.一方,イオン交換法の問題点としては ,1)反応中に,イオン交換サイトからの担持金属が脱離,シンタリングによる凝集が進行する,2)結晶外表面に貴金属原子の凝集体が存在する場合,分子ふるい効果が発現しない,という問題がある.これらの問題に対する解決案としては,超微粒子状態の貴金属をゼオライト結晶内に内包させる方法が挙げられる.本研究では,ゼオライト結晶によって貴金属超微粒子が被覆された,鳥籠型(バードゲージ型)ゼオライトの新規合成法の開発と,同バードゲージ型ゼオライトの触媒反応への展開である. 1)貴金属超微粒子をゼオライトによって包接したバードゲージ型ゼオライト合成として,先ずエマルション中でロジウム錯体を調製した.同錯体が分散したエマルション溶液にゼオライト合成用のシリカ源と構造規定剤を投入し,水熱合成することで,ロジウム超微粒子が固定化されたバードゲージ型ゼオライトの合成を試みた.バードゲージ型ゼオライト合成における重要な点は,貴金属超微粒子とゼオライトを含むシリカ種の親和性である.エマルション中のロジウム錯体超微粒子を厚さ数nm程度のシリカで被覆した後,ゼオライト原料を投入し,水熱合成することで,バードゲージ型ゼオライトの合成が可能であることを見出した.同法により,粒子サイズ約2~3nmのロジウム超微粒子が固定化されたMFI型ゼオライトの調製に成功した. 2)熱的安定性の評価として,調製したバードゲージ型ロジウム/ゼオライトを,500℃~900℃で焼成し,ロジウム粒子径を透過型電子顕微鏡で観察した.その結果,ロジウム粒子径は焼成前とほぼ同じであり,優れた熱的安定性を示すことを明らかにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1)貴金属超微粒子のゼオライトによる包接,バードゲージ型ゼオライト合成 貴金属超微粒子としては,ロジウム(Rh)を検討した.貴金属超微粒子が分散したエマルション溶液を合成し,同エマルション溶液に以下の手順を施し,バードゲージ型ゼオライトを調製した.手順1)ロジウム錯体超微粒子が分散したエマルション溶液にシリカ源を添加し,シリカ包接貴金属錯体超微粒子の形成,手順2)ゼオライト母液水溶液を添加し,シリカ包接貴金属錯体超微粒子を核としてゼオライトを形成.エマルション中に貴金属塩水溶液と微粒子調製剤を投入した.ヒドラジン,水素化ホウ素ナトリウム,各種アミンを検討した結果,ロジウムの場合ではヒドラジンが適していた.ロジウム-ヒドラジン錯体超微粒子が分散したエマルション溶液にシリカ源を投入し,同錯体超微粒子がシリカによって包接された微粒子を合成した.シリカ包接錯体超微粒子が分散した溶液にゼオライト合成原料を投入し,水熱合成することにより,ロジウム超微粒子がMFI型ゼオライト微粒子に内包されたバードゲージ型ゼオライトの合成に成功した.以上より,当初の計画を達成できた. 2)バードゲージ型ゼオライトの触媒への展開 粒子サイズ約2~3nmのロジウム超微粒子がMFI型ゼオライトにより包接されたバードゲージ型ロジウム/ゼオライトを,500℃~900℃で焼成した.ロジウム粒子径を透過型電子顕微鏡で観察した結果,ロジウム粒子径は焼成前とほぼ同じであり,優れた熱的安定性を示すことを明らかにした.さらに,同バードゲージ型ゼオライトをシクロヘキサンの水素化反応へ適応し,同触媒は水素化能を有することを明らかにした.以上より,当初の計画を達成できた.今後は,ゼオライト層の厚さ,ロジウム担持量,プラチナへの展開を検討する.
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今後の研究の推進方策 |
(平成26年度) 1)貴金属超微粒子のゼオライトによる包接,バードゲージ型ゼオライト合成 平成25年度の研究により,貴金属超微粒子がMFI型ゼオライトによって内包されたバードゲージ型ゼオライトの調製法を確立した.平成26年度では,同法を発展させ,先ず,①内包される貴金属超微粒子として,プラチナを検討する.ここでは,エマルション中での微粒子形成剤の探索が重要となる.次いで,②ゼオライト層として,シリカ以外にアルミニウム,もしくは鉄原子がゼオライト骨格に組み込まれた,MFI型ゼオライトの調製を検討する.これに関しては,代表者らはゼオライト骨格構造への鉄,コバルトなどのヘテロ原子導入技術を有している.これまでのノウハウをバードゲージゼオライト合成へ展開する.そして,平成25年度に実施した水素化能と併せて,固体酸性質の評価を実施する. 2)バードゲージ型ゼオライトの触媒への展開 ゼオライト層を形成するMFI型ゼオライトの細孔径は0.55nmであるため,水素分子とベンゼン分子は結晶細孔内に侵入し,内部の貴金属と接触することができる.一方,トリメチルベンゼンはゼオライト細孔径よりも分子サイズが大きい.そこで,Pt,Rh等の貴金属超微粒子が内包されたバードゲージ型ゼオライトをベンゼンの選択的水素化反応に展開し,水素化活性と分子ふるい能を実証する.平成25年度では,常圧系において水素化活性試験を実施した.平成26年度は,より水素化が進行する加圧系について,貴金属内包バードゲージゼオライトの水素化能を検証する.さらに,ゼオライト層厚さの異なるバードゲージ型ゼオライトを触媒に使用し,ゼオライト構造が維持できる上限温度(700℃)にて焼成することで,貴金属超微粒子の耐シンタリング性能評価を実施する.
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次年度の研究費の使用計画 |
主要な研究計画である,ゼオライトに貴金属超微粒子が内包されたバードゲージ型触媒の開発を遂行するためには,1)液相中での超微粒子の形成,2)超微粒子状態でのゼオライトによる包接,を達成する必要があった.油中水滴型エマルション溶液中で,錯体を形成し得る様々な微粒子形成剤を探索し,ヒドラジンが安定なロジウム錯体の形成に適していることを見出した.しかし,ゼオライト合成時にロジウムの凝集体を形成し,マクロ粒子化することが問題となった.これに対し,ロジウム錯体の表面にシリカ超薄膜層を形成させる手法を開発し,ロジウム超微粒子がMFI型ゼオライト微粒子に内包されたバードゲージ型ゼオライトの合成に成功した.シリカ超薄膜層を形成さる手法を開発したことにより,研究がスムーズに進み,当初の予定より物品費を抑えることができた. ロジウム超微粒子がMFI型ゼオライトによって内包されたバードゲージ型ゼオライトの調製法を,新たな貴金属超微粒子(プラチナ)に対して展開する.平成25年度では,ゼオライト層としては,シリカのみから構成されるMFI型ゼオライトを形成させていた.平成26年度では,シリカ以外に,アルミニウムや鉄原子がゼオライト骨格に組み込まれたゼオライト層を形成させる.従って,昨年度と比較し,試薬の種類と単価が増加することが見込まれる.また,本年度は触媒反応を高圧条件下で実施する計画であり,高圧仕様の配管部品,反応器の導入を計画している.さらに,これまでに得られた成果を,国内学会と併せて,ゼオライトに関する国際会議(FEZA2014 ドイツで開催)にて発表する計画である.昨年度の差額は,主に試薬購入費,高圧系反応実験の物品費,および学会発表のための旅費に充てる計画である.
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