研究課題/領域番号 |
25630367
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
實川 浩一郎 大阪大学, 基礎工学研究科, 教授 (50235793)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 酸化反応 / 触媒化学 / 高選択的反応 |
研究概要 |
含酸素化合物が非常に重要な位置を占める現在の化学工業において、酸素分子を酸化剤として用い、温和な条件で選択的に酸素官能基を有機化合物に導入する反応は、反応性や選択性の制御が未だ充分ではなく、大きな課題として残っている。そこで本研究では、酸素分子を直接に有機化合物に導入するのではなく触媒サイクルにおける再酸化剤として用い、求核剤として水を用いて水に含まれる酸素原子が含酸素化合物の酸素源となる、高選択的な酸素官能基導入反応の開発を行った。 1年間の研究の結果、酸素分子を酸化剤とし水を酸素源とする新しい型の酸化反応を開発できた。パラジウム触媒を用い溶媒にDMA(N,N-ジメチルアセトアミド)を用いる系は、従来の銅-パラジウム-DMF系でのWacker-Tsuji反応に比較して銅を取り除いた効果が現れ、末端オレフィンだけでなく内部オレフィンまでも基質に用いることが可能になって、二重結合部位を選択的に酸化してケトン類を合成できた。さらに官能基をもつ基質にも適用でき、位置選択的な酸素官能基の導入までを実現した。この成果をもとに、すでに2件の論文報告を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
1年間で予定した以上の成果をあげることができた。特に官能基を持つオレフィン類を基質として酸化反応を行ったところ、その官能基を酸化することなく維持したまま、二重結合部位のみを酸化してケトン化できた。しかもケトンが導入された位置は官能基より遠い側の炭素原子であり、基質側の立体的電子的要因で選択性をコントロールできることが明らかになった。さらに、二重結合と官能基の位置関係によって本触媒を用いた直接酸化反応が適用できない基質に対しても、求核剤として水に換えてメタノールを用いれば反応することを見いだし、本研究で開発したパラジウム-DMA系は酸素官能基導入反応として広く一般化できることが分かった。 パラジウム-DMA系は、比較対象とする銅-パラジウム-DMF系での反応に比べてsimpleかつcleanであり、もともと環境調和型であるという特徴を有していた。その触媒反応系が選択性の制御までを可能にし、さらに反応の拡張性まで示すことができたので、当初予定した目的を完全に達成した。
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今後の研究の推進方策 |
2年間で達成できることを目指した本研究であるが、上述のように当初目標とした選択的な酸素官能基導入反応を既に達成できた。したがってさらに高度な目標として、今後は本反応を進行させる触媒系の不均一化にチェレンジする。 本研究で開発したパラジウム-DMA系は基本的には触媒活性種であるPd(II)種が溶媒であるDMAに溶解した均一系での反応であり、生成物であるケトン類(含酸素化合物)と触媒との分離が困難であるという欠点がある。これは均一系触媒自体がもつ性質であり、分離にエネルギーを必要としない省エネルギー型と金属触媒の回収再使用という資源の有効利用の2つの観点から、反応系を不均一化する必要がある。そこで今後は、固体触媒あるいは固定化錯体触媒による本反応の不均一系での確立にむけて取り組んで行く計画である。
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次年度の研究費の使用計画 |
上述のように、当初に計画した以上に順調に研究が進んだので、研究成果の学会発表を行う機会が無く、直接に論文発表するまでに至った。トライした実験の数が少なくて大きな成果を上げたので消耗品の使用も少なく、当初予定した金額全てを使用する事が無かった。現在、本研究の次の段階にあたる固体触媒化を目指している。この研究はより難度が高く、実験の失敗も予想できるので、研究費を消耗品に充てることを考えて次年度使用とした。 本年度は均一系で当初計画した選択性・反応性を示す触媒反応系の開発に成功したので、次年度は不均一系で同じ機能を発揮する触媒システムの設計開発を行う。具体的には、(i)溶媒として用いたDMAがパラジウムのPd(0)種からPd(II)種への再酸化に機能しているので、アミド系ポリマーとパラジウム種との組み合わせにより金属種を固定化する方法を開発する。(ii)反応系に金属カチオンの対イオンとして塩素イオンが存在しているが、このイオン種を固体化する。すなわちヘテロポリ酸などの固体アニオンを対イオンとしたパラジウム種の固定化法を開発する。この2つのアプローチによって、本触媒系の実用化に向けた研究を展開する計画である。
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