研究実績の概要 |
含酸素化合物は有機化合物の中で重要な位置を占め、その選択的な合成法の開発は触媒化学の大きな課題である。酸素官能基導入反応の有力な手段となる酸化反応は一般にコントロールが困難であり、特に高い選択性を要求される反応において、酸素分子は酸化剤としてユビキタスな存在であるが、ラジカル性が強くまた酸素-酸素結合の切断に必要な電子移動が制御し難いため、酸素分子が直接基質に取り込まれる例はほとんどなかった。そこで本研究では、酸素分子を金属種の再酸化剤として用いる触媒反応系について検討を行なった。 従来型のWacker-Tsuji反応は、末端オレフィンからメチルケトン類を合成する手段として有用であるが、内部オレフィンや官能基を持つ基質には適用できなかった。本研究では25年度にその欠点を解消した反応系として、PdCl2-DMA系触媒を用いて水を求核試薬としたオレフィン類の炭素-炭素二重結合のカルボニル化を開発し、高選択的な酸素官能基導入反応へ展開した。その結果、α,β-不飽和化合物を基質に用いた場合、位置選択的な酸化反応によって、含窒素へテロ環合成や液晶化合物の出発物質として重要なβケトエステル類を簡便に合成することが可能になった。 この触媒反応は均一系であるので、26年度はさらに工業触媒として有用性をあげるためにパラジウム種の固定化を試みた。しかし現時点ではリーチングの問題が解決できておらず、有意な知見を得ていない。 また本研究に並行して金属触媒を用いた幾つかの酸素酸化反応についても研究を展開し、シランからシラノール生成や、フェノールのカップリング反応など、酸素分子が生成物に取り込まれない形の触媒反応を見いだすことができた。
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