研究課題/領域番号 |
25630373
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
福居 俊昭 東京工業大学, 生命理工学研究科, 教授 (80271542)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 生物・生体工学 / 生分解性プラスチック / ポリヒドロキシアルカン酸 / 微生物合成 |
研究実績の概要 |
本研究では、環境低負荷型プラスチックとして期待されるポリヒドロキシアルカン酸(PHA)の微生物合成において、PHA顆粒結合タンパク質PhaPに着目した新たな生合成制御法の確立を目的としている。本年度では、まずPHA生産菌Ralstonia eutropha H16株における主要phasinであるRe-PhaP1はPHA蓄積期特異的に強く発現することを利用し、Re-phaP1 下流にAeromonas caviae由来の外来PHAシンターゼ変異体遺伝子(Ac-phaC(NSDG))や(R)-エノイル-CoAヒドラターゼ遺伝子(Ac-phaJ)を挿入することで、大豆油から生合成されるP(3HB-co-3HHx)の3HHX分率が増加することを示した。 さらに、これらの株におけるRe-phaP1を導入した外来phaCと同じ微生物由来のAc-phaPに置換する組換え操作を行ったところ、phaP以外の遺伝的・代謝的背景は同一であるにも関わらず3HHx分率がさらに増加することを見出した。また生合成された共重合PHAの分子量もAc-phaPへの置換によって増加した。PHA顆粒画分を用いた活性測定では、PhaP置換株ではPHAシンターゼの活性と基質親和性が顕著に増加するが、その増加の程度はC6特異的に大きくなっていることを示した。PhaP置換株およびコントロール株から密度勾配遠心によりPHA顆粒を単離し、その単離顆粒の表面に結合したPHAシンターゼの存在量を求めたところ、PhaP置換による変化はなかった。これらの結果より、PHA顆粒表面に存在するPHAシンターゼの触媒特性は同じ顆粒表面上に存在するPhaPによって変化すること、およびPhaP置換がPHA共重合体の組成制御に有効な新規改変戦略であることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前々年度までに顆粒結合タンパク質PhaPの置換により共重合PHAの組成が変化する現象を見出していたが、その詳細は不明であった。本年度では、PHAシンターゼのC6基質であり、市販されていない(R)-3HHx-CoAを化学合成と酵素変換を組み合わせた方法によって大量に調整し、各種組換え株の不溶性画分(PHA顆粒を含む)中のPHAシンターゼについて、鎖長の異なるモノマー基質(C4およびC6)に対する詳細な動力学的解析を行うことができた。また、密度勾配遠心で単離したPHA顆粒画分について、結合タンパク質の解析を実施した。これら検討の結果、PHA顆粒表面に結合しているPhaPの種類によって、同じ顆粒表面上に共存するPHAシンターゼの触媒特性が変化することを初めて示すことができた。 これまでのP(3HB-co-3HHx)生合成の研究では3HHx分率増加はPHA生産量の低下を伴うことが多いが、本研究におけるPhaP置換では高いPHA生産量を維持しつつ、3HHx分率を増加させることが可能であり、共重合PHAの微生物生産の観点からも重要である。これらのことから概ね順調に進展したとみなせるが、PHAシンターゼの触媒特性を変化させている機構の解明には到らなかった。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに作製したPhaP置換株およびコントロール株について超薄切片を調整し、その透過型電子顕微鏡により菌体内PHA顆粒の形状、大きさ、数を観察することでPhaP置換が菌体内でのPHA重合におよぼす影響を検討する。また、PHA顆粒表面上のPHAシンターゼの触媒特性を変化させている機構の可能性として、PhaC-PhaP間相互作用がある。このタンパク質間相互作用について、表面プラズモン共鳴法などによるin vitro系や、細菌two-hybrid法などによるin vivo系での検出と解析を検討する。一方、当研究室では最近、R. eutrophaの代謝工学によりフルクトース・グルコース・グリセロールを原料としてP(3HB-co-3HHx)を生合成可能な組換え株を作製している。そこで、この非油脂系バイオマスを原料した共重合PHA生合成におけるPhaP置換の効果について検討する。この検討は多様なバイオマスを原料とした実用的な共重合PHAの生産の観点から重要であることに加え、PhaPがPHA生合成に与える影響についてさらに理解する糸口となる可能性がある。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成26年度は基質合成と、前年度までに作製した組換え株の培養と酵素活性測定を主に実施し、高価な試薬やキットを多く必要とする遺伝子操作や相互作用解析は行わなかった。基質合成や培養・活性測定は既存設備を用いて低コストで行えるため、消耗品の使用額が当初見込みより少なくなった。
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次年度使用額の使用計画 |
期間延長した平成27年度では、PHA顆粒の電子顕微鏡観察や、PhaP-PhaC相互作用解析の実施に必要な消耗品費として使用する。
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