本研究では環境低負荷型プラスチックとして期待されるポリヒドロキシアルカン酸(PHA)の微生物合成において、PHA顆粒結合タンパク質(phasin)に着目した新たな生合成制御法の確立を目的とした。phasinは疎水的なPHA顆粒を細胞内に維持する機能を担っていると考えられており、PHA生産菌Ralstonia eutropha H16株においてPhaP1Reは主要なphasinである。我々は以前に、Aeromonas caviae 由来広基質特異性PHAシンターゼ変異体PhaCNSDGを機能させることで脂肪酸・植物油からP(3HB-co-3HHx)共重合体を生合成可能なRaltonia eutropha組換え株を作製しているが、この組換え株においてphaP1ReをPhaCNSDGと同じA. caviae由来のphaPAcに置換する組換え操作を行ったところ、植物油を炭素源としたPHAの3HHx分率と分子量が増加することをこれまでに示した。 さらにPHA顆粒画分を用いたPHAシンターゼ活性測定を行ったところ、PhaP置換株ではC6基質に対するPHAシンターゼの活性と基質親和性が顕著に増加していることを見出した。密度勾配遠心により単離したPHA顆粒の結合タンパク質の解析では、PhaP置換株顆粒の主要phasinは確かにPhaPAcに置換されていること、また顆粒表面上のPHAシンターゼの存在量は変化ないことを明らかにした。PHA蓄積菌体の超薄切片TEM観察では、PhaP置換による菌体内PHA顆粒の数や形状に大きな差は見られなかった。これらの結果より、PHA顆粒表面に存在するPhaPの置換によって顆粒上のPHAシンターゼの触媒特性を変化させ、代謝経路やPHA蓄積機構を変えることなくPHA共重合体の組成や分子量を制御できることが示した。一方、我々は糖質からP(3HB-co-3HHx)を生合成可能な組換えR. eutropha株を近年確立しており、この株において、phaP1ReをphaPAcに置換する操作を加えたが、糖質炭素源から生合成したPHA中の3HHx分率の増加はわずかであり、炭素源の違いによりPhaPの効果が異なる現象が見られた。
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