研究課題/領域番号 |
25630375
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
末原 憲一郎 三重大学, 生物資源学研究科, 准教授 (70291614)
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研究分担者 |
橋本 篤 三重大学, 生物資源学研究科, 教授 (40242937)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 光計測 / 光センサ / バイオプロセス |
研究概要 |
曲げたプラスチック製光ファイバを用いた物質界面、屈折率(物質変化モニタリング、バイオケミカルセンサへの展開)、分光スペクトル計測への挑戦を目指し、初年度である平成25年度においては、その再現性と基本性能試験を実施した。 1. 基本性能試験① ファイバの細工方法(曲げ方)、曲率(曲げたときの幅)および複数本のファイバを細工した際のファイバ両端での光の減衰を測定した。小型万力による非加熱での細工法がセンサ先端を再現性良く形成できることがわかった。また、曲げ幅を5mm 、ファイバ両端と光源・分光器ファイバの接続部をアルミパイプで固定化することで安定した測定が可能であることがわかった。その他、電源投入後の光源と分光器の安定化条件なども加味することで安定した計測系が確立できた。 2. 基本性能試験② 食品モデルとして、濃度の異なる糖-塩水溶液を用いた。スクロース0~0.5およびNaCl 0~4.0Mの水溶液を調製して光の減衰率と物質量(濃度、密度)との関係を調べた結果、光の減衰率の対数値は糖の質量百分率および溶質の質量百分率に比例する関係が得られた。物質に対する光の相互作用(吸収など)は、ランバートベールの法則に見られるように対数の関係で表わされる。光ファイバを曲げただけで作成できる本センサは、光計測の原理原則に則った測定が行えていることがわかり、新規光計測法開発に向けて次のステップへの重要な知見が得られた。電気電子回路を利用した簡易計測法への進展も見込めるようになった(来年度計画に追加)。 3. ファイバ表面への物質固定化 来年度本格試行のための予備実験として、交互累積膜法によるブロモチモールブルー(BTB)の固定化を試みた。固定化自体は成功したが、色素の色変化が見られなかった。来年度は、膜に馴染みやすい物質であるフェニルボロン酸(糖に反応する)他数種類の色素固定化を試みる予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本申請課題の特徴は、通信用に用いられている安価な光ファイバを曲げるだけでバイオ・ケミカルセンサへの進展が可能な物質感知センサが作成できることにある。しかし、簡単であるがゆえに、ファイバの曲げ方や光源・分光器への光の通し方(ファイバ接続部)、そもそも光計測法として妥当性がある測定結果が得られるかなどの不確定要素が多い。それが、平成23年度A-STEP探索タイプにて採択された課題の延長であるにもかかわらず、挑戦的萌芽としての課題申請に至った理由である。 A-STEPでは、主に電気電子センサ回路の改良をメインに試験を行ったが、光計測法としての不確定要素の多さは解決されなかった。本年度の基本性能試験によって、光計測法として安定した測定が行えるようになった。これにより、曲げた光ファイバの光量変化と物質量との間に明確な対数プロットが成り立つことが確認できた。つまり、この研究課題で提案したセンサは、光計測の原理原則に則った測定が行われていることが示されたことから、挑戦的萌芽課題としての本研究の目的の半分は十分に達成できたと思われる。光計測法の原理原則に則った測定データが得られることで、A-STEPにて示した簡易型回路をさらに改良したセンサへの展開も可能であり、分光計測への挑戦も意味のあるものとなってくる。たとえば、実際の発酵プロセスにおいては低濃度の範囲での測定になるが、電子回路でわずかな光量変化を検出する際に光計測の原理原則に則っていなければノイズに埋もれてしまうことが考えられる。 以上のように、本年度の研究成果そのものは基本性能試験(センサの加工、測定器の安定化と比較的高濃度の糖-塩水溶液での測定)とセンサ先端への物質固定化の予備実験におわっているが、本年度の結果は、次年度への挑戦および以前の電気電子回路開発の成果を生かすための大きな成果であると考える。
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今後の研究の推進方策 |
光計測の原理原則に則った測定結果が得られることがわかったので、26年度は当初の計画通りバイオケミカルセンサへの展開と分光計測への挑戦を行う。 1.バイオケミカルセンサへの展開 [発酵モニタリング] 基本性能試験では、スクロース濃度0.5M(約180 g/ L)、塩化ナトリウム濃度約4.0M(約230 g/L)の比較的高濃度の糖‐塩水溶液を用いて試験を行った。今年度は、実際の発酵食品プロセスを想定し、植物細胞培養液(スクロース30 g/L、混合塩濃度4.6 g/L)およびその発酵中の培養液(徐々に糖‐塩濃度が減少する)の物質変化のモニタリングを試みる。その際、性能試験で用いた光源・分光器以外にも、電気電子回路と光センサ(フォトダイオード)を用いた微量な光量変化の検出も試みる。 [ケミカルセンサへの挑戦] 上記電気電子回路を用いたセンサを流用し、光ファイバ曲部先端に色素などの物質を固定化し、環境変化をモニタリングするセンサを試作する。物質としては、BTB以外のpH応答性色素や糖に反応するフェニルボロン酸などを試験する。 2.分光計測への挑戦と本課題の総括 曲げた光ファイバを逆型ATR(全反射減衰法)のような形で用いることにより、スペクトル測定に挑戦する。これまでの基本性能試験の結果を見る限り、複数波長の光で減衰量を精度よく測定する必要があり、かつ可視光では波長が短すぎてスペクトル測定は難しいように思われる。長波長側(近近赤外:~1000nm)かつファイバの細工(表面コーティング除去)などを行い、分光計測への挑戦を含めて本申請課題の総括を行いたい。
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