研究課題/領域番号 |
25630379
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
斉藤 真人 大阪大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (80457001)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | PCR / バイオチップ |
研究概要 |
食の安全・健康維持・環境保全など安心・安全な社会を実現するための基盤として、食品加工工場、飲食店、在宅などの各現場において、簡易な操作で迅速かつ高感度に病原性細菌などを検出する遺伝子検知システムの開発が望まれている。そこで熱対流による反応溶液の自走駆動と遠心力による熱対流加速を利用したオンチップPCR法を提案する。遠心場に置くことで、熱対流速度が速まり、PCR反応を迅速化することが可能であり、また従来のような外部の送液ポンプを必要とせずに反応液の混合と送液が可能で、また装置の小型化だけでなく簡易化も可能となる。これによりユーザーの技術レベルに依存せずに細菌の遺伝子検知が各現場で可能となるものと期待できる。 H25年度は、遠心促進熱対流PCRにかかる基礎条件の検討を行った。熱対流が可能なリング状流路の基本設計を行い、熱対流部としてリング流路外径6 mm、流路幅500μm、流路深さ400μmの流路サイズとした。さらに、試料溶液導入部に2本の流路を設け、反応試薬溶液を毛細管現象で吸い込む部分(リング状流路の容量以上)と、流路内の空気を逃がすための部分から構成される。素材として、流路部はポリジメチルシロキサン(PDMS)、蓋材はガラスを用いて、微細加工技術に基づいて作製した。リング状流路内で熱対流を発生させるため、またPCR反応を行うために、95℃と60℃の熱源ヒーターブロックに作製した流路チップを設置し、加熱しながら回転させた。作製したチップに水と食紅液を充填し、熱対流の様子を観察したところ、相対重力加速度と対流速度の関係が得られた。ヒトゲノムDNAをテンプレートに用いてβ-Actin DNAの増幅を行ったところ、相対重力加速度5Gにおいて最もDNA増幅がなされたことが確認された。またわずか15分での迅速DNA増幅が可能であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
各現場において、簡易な操作で迅速かつ高感度に病原性細菌などを検出する遺伝子検知システムの開発が望まれているが、現場使用を想定する場合に重要な点が、操作簡易性、装置の小型化、検出の迅速性にある。本研究ではこれらの点を含めた効果的なデバイスを創出を目指し、熱対流による反応溶液の自走駆動と遠心力による熱対流加速を利用したオンチップPCR法を提案している。H25年度は、遠心促進熱対流PCRにかかる基礎条件を求めることにある。検討を行った結果、遠心熱対流用マイクロ流路チップを作製し、相対重力加速度と熱対流速度の関係、つまり遠心による熱対流速度向上を確かめ、PCR反応の迅速化を達成することができた。また従来のマイクロ流路PCRのような外部送液ポンプを必要とせずに、遠心による反応液の溶液駆動を可能とした。予定通り順調に進捗している。
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今後の研究の推進方策 |
H26年度は、H25年度までに明らかにした諸条件をもとに、内在性コントロールなどの標準試料を用いて遠心促進熱対流型PCRを行い、DNA増幅効率や検量特性、検出感度、吸着防止(ブロッキング)などを検証・評価する。検出は蛍光PCRを利用する。試作したチップ・システムをもとに、例えば、歯周病菌やサルモネラ菌などの感染症菌類をモデルに選び、細胞数に応じたDNA増幅量(検量特性)などの評価を検討する。 また、PCR操作の簡易化も検討する。例えば、①リング状流路に反応試薬をあらかじめ充填したチップを準備し、②検体液をチップに滴下するだけで、③反応試薬と混合および増幅反応させることを検討する。得られる実験結果をもとに、各諸条件を最適化し、簡易・迅速な遺伝子検出デバイスへと発展させることを目指す。つまりユーザーの技術レベルに依存せずに細菌の遺伝子検知が各現場で可能となるものと期待できる。 これにより、簡易・迅速なオンサイト型遺伝子診断装置の基礎を築き、様々な感染症や微生物による環境汚染、バイオテロなどの危険に迅速に対処が可能とすることで、医療、食品、防衛と広範な分野の社会の安心・安全に寄与することを目指す。
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