亜リン酸は、+3価のリン酸である。生体反応に関わるリンのほとんどが+5価のリン酸とそのエステル化合物であることから、生物は通常亜リン酸を利用できない。亜リン酸は、無電解メッキプロセスの副産物として、また三塩化リンを利用する様々な化学工業プロセスの副産物として廃棄されている。我々は亜リン酸を唯一のリン源とする最少培地を用い、比較的高温でも旺盛に生育するRalstonia sp. 4506株を分離した。Ralstonia sp. 4506株から得られた亜リン酸酸化酵素(RsPtxD)は、従来よりも安定な亜リン酸酸化酵素であることが分かった。本研究では、RsPtxDを用いた亜リン酸測定法の確立と、植物へRsPtxD遺伝子を導入して亜リン酸を資化できる植物の創成を目的とした。50 mM MOPS-KOH (pH7.3)、0.5 mM NAD+、5 micro M 1-Methoxy PMS、0.1 mM WST-3、4 micro g/mL RsPtxDを含む反応液を作製し、亜リン酸測定系を確立した。島根県のクロボク土(火山性の土で鉄やアルミニウムの含量が多い)を用いてリンの固定を検討したところ、亜リン酸イオンは吸着するものの、土壌に固定されない(不溶性にはならない)ことが分かった。最終的に土壌に固定された量は、リン酸では約70%であるのに対し、亜リン酸は約10%にとどまった。亜リン酸を肥料として利用できれば、土壌に固定されず効率よく植物にリンを有効利用させる革新的な省リン技術ができると考えられた。しかし問題は、植物は亜リン酸を酸化することができず、速度の遅い自然酸化に依存しなければならないということであった。そこで、微生物の亜リン酸酸化酵素を導入したシロイヌナズナを創成した結果、亜リン酸を利用できる植物ができた。
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