金ナノ粒子(以下、AuNP)は、基礎科学からバイオテクノロジー分野まで幅広く利用されているナノ材料である。特に、機能を有するタンパク質がその表面に固定化されたAuNPは、イムノクロマト等で利用可能なナノバイオ素子として広範な応用が検討されている。しかしながら、AuNPの化学合成と、タンパク質生合成の反応場は通常相容れないため、それぞれを個別に調製した上で、試験管内でハイブリッド化する2段階調製法が採用されるのが一般的である。本研究では、申請者らが最近確立した酵素反応を利用して金ナノ粒子を調製する新たな手法の反応場を、試験管の中から、生きた大腸菌の中へと移行することで、目的の機能を有するタンパク質がその表面に配向を持って提示されたAuNPを、細胞質内・一段階で合成する技術の確立を試みた。まず、グリセロールデヒドロゲナーゼ(GLD)が触媒する補酵素の還元反応場に、金結合性ペプチドを融合した抗体結合タンパク質(pG)を共存させることにより、抗体結合能を有するAuNPの調製が可能なことを確認した。次に、細胞質内には目的とするタンパク質以外にも多様な生体高分子が存在することを考慮し、単一タンパク質(酵素)成分で、pG修飾AuNPを調製することを試みた。具体的には、GLDとpGの融合タンパク質(pG-GLD)に金結合性ペプチドを付加することにより、GLD自身が触媒する過程で生じる金ナノ粒子に、pGが自発的に固定化される系を構築することに成功した。最後に、本融合タンパク質をコードする遺伝子を大腸菌内に組み込み、金イオンとグリセロールの共存下で培養することで、抗体結合能を有する金ナノ粒子が組換え大腸菌内に生成することを確認し、当初の目標を達成した。
|