研究課題/領域番号 |
25630410
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
渡邊 隆広 東北大学, 環境科学研究科, 助教 (40436994)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 災害科学研究 / 歴史津波堆積物 / 地球化学判別 / 湖沼堆積物 |
研究概要 |
平成25年度においては、正確な過去の災害規模復元に関する手法を確立することを目指し、津波記録が保存されている可能性の高い青森県東部太平洋沿岸に位置する小川原湖湖底の連続柱状堆積物、および比較対象として宮城県仙台平野における約1000年前の歴史津波堆積物を研究対象とした。本年度は小川原湖から採取した長さ約17cmから42cmの連続柱状堆積物(合計6本、1cm間隔に細分した約170試料)の化学分析を進めた。加えて、各試料の堆積年代および堆積速度を推定するために、試料中の植物残査の放射性炭素(14C)年代測定を行った。分析の結果、湖内陸側では硫黄と炭素の相対比が低く(約0.1以下)、海側で相対的に高い値(最大約0.8)を示した。本結果は海水の影響による硫黄供給を示していると推察され、硫黄と炭素の相対比が、津波による内陸部への海水侵入の指標として適用できる可能性が示された。また、年代測定結果にもとづいて算出した堆積速度は湖内陸側で相対的に遅く(約50年/1cm)、湖中央部および海側で相対的に早い堆積速度を示した(約1.4年/1cm)。 宮城県仙台平野における約1000年前の歴史津波堆積物(貞観津波堆積物)を含む連続土壌試料についても同様に化学分析および放射性炭素年代測定を行った。津波堆積物直下の泥炭層において、硫黄、ヒ素、鉄の濃集が観測された。津波後に海水由来成分が下層に移動し境界層に固定された可能性が考えられる。加えて、試料半割面からU-channnel型の器具を用いて分取した樹脂固定前の連続試料についてXGT装置を用いて化学分析を行った。ヒ素の濃集については分割試料と同様の傾向を示し、XGTによる津波堆積物試料の高精度分解能分析が可能であることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
各試料の1cm間隔での分取作業、凍結乾燥・粉砕作業、U-channnel型の連続試料の分取作業、無機化学分析、有機元素分析等、順調に試料処理および分析データの蓄積を進めている。現在までに小川原湖湖底の連続柱状堆積物から採取された13点の植物残査試料の放射性炭素年代測定を実施し、試料底部のおおよその堆積年代および堆積速度を把握することに成功し、着実な分析作業方針の検討が可能になっている。宮城県仙台平野における連続土壌試料についても同様に放射性炭素年代測定データを取得し津波イベント層との対比を進めている。湖底の安定した堆積環境により、一つの連続した環境変動記録を湖底堆積物試料から得ることができるが、土壌については地表面の剥削や陸成堆積物の再堆積、生物活動による堆積層のかく乱等により、連続した過去の記録を復元することは難しい。しかし、放射性炭素年代測定データおよび化学分析データを蓄積することにより、津波イベント層の特定やその上下層との関連(津波層と泥炭層との間における物質移動)を把握することが可能であり、特に、XGT等による津波堆積物試料の高精度分解能分析を進めることにより津波堆積物を検出する新たなマーカーの開発に繋がることが期待される。本年度は試料の確保、分析方法の選定、各種化学分析を進め、特に、津波により陸域に供給される海由来の元素(ナトリウム、ストロンチウム、バリウム、硫黄等)について、湖底および土壌連続試料堆積物中における濃度分布を把握することができた。
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今後の研究の推進方策 |
基本的に津波堆積物の分布は水平方向に対して一様ではないため、新たな連続試料の採取を進め、特に海側から内陸側への津波堆積物の分布を把握する。加えて、歴史津波の発生時期との対比、および詳細な堆積環境の変化を把握するため、堆積物中から植物残査を選別し、放射性炭素年代の追加測定を進める。目視による選別のみではなく、篩がけ等により微細な植物片をピックアップし、年代値が得られていない堆積層の年代測定を試みる。特に成因不明の砂層について堆積年代を明らかにし、過去のイベントとの対比を進める。1cm間隔に細分した試料についても無機化学分析を継続し、XGT等による津波堆積物試料の高精度分解能分析との対比データを蓄積する。また、地域的な特徴や堆積物の供給源を把握するため主要元素に加えて微量元素についても化学分析の追加実施を行う予定である。さらに、未固化試料に加え、樹脂固化した連続試料の高精度分解能分析手法の確立を目指す。特に、津波堆積物層とその上下の泥炭層との境界層付近を集中して分析し、各元素の分布・遷移傾向について明らかにする。上記の内容について集約し、堆積後における海由来成分の挙動の把握に加え、ヒ素の濃縮メカニズムと津波浸水との因果関係を明らかにする。津波層とそれ以外の層における化学組成を明らかにし、かつ各地域、各年代の津波堆積物の化学組成の特徴を把握し、化学判別解析手法の精度を向上させる。 特に、砂質の津波堆積物の化学的特徴をベースにして、泥質の津波堆積物の判別を進める。
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