研究課題
挑戦的萌芽研究
本研究の目的はγ線エネルギースペクトロメーターを開発する事で、高速点火核融合の最も重要な物理課題である電子の発生と輸送の解明に貢献する事である。高速点火核融合では超高強度レーザーによって生成された高速電子のエネルギーを、核融合燃料のコアの加熱に最適なように制御する事がもっとも困難な課題である。その電子エネルギースペクトルを計測する為に、電子のターゲット内での制動放射X線のエネルギースペクトル計測が重要である。0.5MeVから30MeVまでのX線スペクトルを計測できる装置の開発が本研究の目標である。(1)コンプトン散乱の原理を利用した検出器と、(2)γ-n反応の原理を利用した検出器の2種類の開発計画に従って研究を展開した。以前から先行研究として試作機の開発を行なっており、平成25年度の研究によりこれらの2台の計測器の試作機が完成した。(1)コンプトン散乱γ線スペクトロメーターに関しては、計測器の性能評価を行うために、コバルト60線源から発生するγ線の計測試験を行った。大阪大学産業科学研究所が保有する8TBqコバルト放射線源施設を利用した。1.1MeVと1.3MeVの2本のラインが明瞭に分離された信号を観測した。一方(2)のγ-n反応型の分光器は、産業科学研究所の電子加速器(LINAC)を用いて性能評価を行った。16MeVの電子線を鉛ターゲットに照射する事で、制動放射による既知のX線源を作り出し、計測器の性能評価試験を行った。γ-n反応に由来する中性子の信号が観測され、計測器の原理実証がなされた。しかしながら環境から発生する中性子による信号が多く混入し、エネルギースペクトル測定には至っていない。本年度は(2)の計測器の改良に注力する。
1: 当初の計画以上に進展している
当初計画案では3年間をかけて2つの計測器開発を行なう予定であった。実際には1年終了時で(1)コンプトン散乱型計測器の開発、性能評価実験まで成功した。ほとんど完成といっても良いレベルまで達している。今年はいよいよ核融合実験に導入し、高速点火核融合の電子スペクトル計測に貢献する。一方(2)も試作機としては完成し、性能評価実験にまで持ち込んだ。バックグラウンド信号が多かったという問題は有るものの、計測原理の実証まで進んだ。このように本研究課題は当初の計画よりも前倒して進捗しているといえる。
本研究の開発の為に今年度は博士後期課程1年生の学生2名が(1)コンプトン散乱型計測器、(2)γ-n反応型の計測器のそれぞれの開発に当たっている。これによって本研究は非常にスピーディーに進歩すると考えられる。性能評価基礎実験を行なう施設としては、大阪大学産業科学研究所のLINAC施設のマシンタイムが採択されており、7月と9月ごろに実験を行なう予定である。また兵庫県立大学Spring8施設内のNewSUBARU実験施設の宮本教授とも共同研究を行なう事になり、NewSUBARUから放射される電子にレーザー光を衝突させることで発生する単一エネルギーのγ線を用いた実験も行なわれる予定である。本年11月からは本題の高速点火核融合実験が行なわれ、LFEXレーザーの最大出力での照射が行なわれる。X線スペクトロメーターの活躍が非常に期待されている本年は、本研究課題が特に進歩する事が予想される。
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Plasma and Fusion Research
巻: 9 ページ: 1000-1~1000-3
10.1585/pfr.9.0001000