研究課題/領域番号 |
25630425
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
新堀 雄一 東北大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (90180562)
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研究分担者 |
千田 太詩 東北大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (30415880)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 地層処分 / 放射性廃棄物 / 原子力エネルギー / 不飽和帯 / 冠水過程 |
研究実績の概要 |
本研究の課題1「室温環境下における冠水過程の評価」および課題2「高温環境下における冠水過程の評価」を行った。 本年度は高温環境下(室温以上の100℃未満を想定)の流動実験を、前年度と同様のマイクロフローセル装置を利用し,所定温度に設定しながらCa含有高アルカリ水の冠水過程を追跡した。この装置より、出口までの液相の破過現象および流路表面への析出現象を、圧力変化およびろ液の化学分析により追跡した。その結果、固相表面への析出物の生成は、温度が高くなるほど顕著になり、浸透率の変化からみかけの析出速度定数を評価したところ275 Kから313 Kの温度範囲において、0.6 mm/sから3.0 mm/sであった(この値は固相の比表面積およびCa濃度を掛けることにより析出速度となる)。さらに、そのみかけの活性化エネルギーは32.0 kJ/molであった。この値は、昨年度、流路からケイ酸を供給する主要な鉱物として挙げた石英の溶解速度の活性化エネルギー45.5 kJ/molよりやや小さい値であった。この原因は、析出挙動において物質移動を無視することはできず、若干でも析出物が系外に流出していることにある。このことは課題1において流量を上げた実験の結果とも矛盾しない。 また、気体の溶存速度をカラムおよびマイクロフローセルにより整理したところ、溶存した気相の液相中における拡散過程がみかけの溶存速度を律速していることが示唆された。そこで、溶存気相の液相側における拡散過程およびその環境温度を考慮した冠水過程のモデル化を行った。そのモデルは1次元の拡散モデルと気相と液相との二重境膜を仮定した界面からの着目気相の液相への溶存を考慮するもので、実験結果からみかけの拡散係数の値を評価したところ、固相がない場合の文献値に比較して2桁大きい値となった。これは、毛管力による界面形成が固相により複雑となり、溶存界面の面積が増加することに起因すると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度と同様に、マイクロフローセル装置へ連続的に高アルカリ水を注入する実験では、セメント系材料との接触を考慮してカルシウムイオンを8.5 mM含みかつ水酸化ナトリウムによりpHを12.4に調整した。その際のカルシウムとケイ酸成分との析出挙動では、前述に示した実績のように析出速度の評価から析出物が系から流出することが示唆された。そこで、流動系においてカルシウムイオン濃度およびpHが一様と見なせるか否かを確認した。その結果、注入したカルシウムイオンの量は十分であり、流入口と流出口との濃度差は無視できるほどに小さいこと、またpHも12.2~12.3程度で維持されていることが明らかになった。すなわち、析出速度を評価する際に、流路におけるカルシウム濃度やpHの分布は無視できる。さらに、流動系からの微量なケイ素の流出を確認した。これは、流路への析出物および系からの流出物はセメント系材料の主成分であるカルシウムシリケート水和物であることを示す。また、試みにろ液のゼータ電位を測定したところ、+30mV程度の値となった。従来の研究からカルシウムシリケート水和物においてCa/Siモル比が1.2以上になると、明らかにゼータ電位は正になることから、流出物はCa/Siモル比の比較的大きいカルシウムシリケート水和物であることが示唆された。なお、通常用いられる普通ポルトラントセメントのカルシウムシリケート水和物のCa/Si比は1.6程度である。 本知見は、流路の閉じ込め性にも寄与することを意味し、上述の研究実績に加え、次年度以降の考察に活用することができる。以上より本研究はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度は,最終年度として前年度の実験を引き続き行うと共に、比較のために高アルカリ水によるカラム実験を実施し、その挙動をマイクロフローセル装置による結果と比較し、検討する。また、非等温環境下における冠水過程の評価(課題3)を行うために、前年度までの知見を基に気相の溶解度および拡散挙動の温度依存性を考慮した固相共存下における気相成分の溶存・移行モデルを構築する。さらに、処分システムにおける再冠水に要する期間の算出(課題4)として 実際に処分するサイトは決まっていないため、いくつかのモデルサイトを日本原子力研究開発機構の既存レポートを参照して定め、本研究により作成した評価モデルを利用して冠水に要する期間を試算する。そこでは,初期不飽和帯の体積(掘削影響領域の大きさと関連すると仮定)や、サイトの浸透性に対する不確実性を含むため、それらをも考慮した冠水までに要する期間(冠水期間として試算される最短と最長)を示す。そして、再冠水の期間を考慮した廃棄体間隔の算出(課題5)として、課題1から課題4までの知見および高レベル放射性廃棄物(ガラス固化体)の発熱量の変化に伴う処分場周辺の温度推移(従来の計算結果)を基に、処分場における廃棄体定置の高密度化(地層処分システムのコンパクト化)を評価する。 また、当年度は本研究の最終年度であり、学会等での発表、コメントを得て、最終成果を取りまとめる。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究の進捗により、実験補助に要する謝金が予算と異なったために差額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額を活用して、試薬およびカラム作成材料などの消耗品を購入する計画を組んでいる。
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