研究実績の概要 |
本研究では、超放射を利用することにより、サブナノ秒の減衰時定数を持ちながら、なおかつ高効率な発光を示すシンチレータ材料を開発を目的とした。シンチレータ材料において初めて、多数の双極子のコヒーレントな遷移として記述される集団的な励起状態からの発光を用いることにより、現行のシンチレータ材料開発アプローチの限界を突破する。励起密度やコヒーレンス長を変化させて発光寿命を測定し、放射線励起による超放射挙動を解明する。特に、高い励起密度では、より短い発光寿命が得られると予見される。そのため、検出対象放射線の線エネルギー付与(LET)に応じた発光寿命を示す材料として、重粒子線や、(n,α)反応を通じた中性子検出において、重粒子・中性子検出イベントを弁別可能なシンチレータとなると期待される。 今年度には、テトラセンやペンタセンといった、超放射だと考えられる発光が光励起により報告されている系を対象とし、その単結晶を育成した上で、シンチレーション特性を詳細に解析した。単結晶の育成には、溶媒蒸発法を用いた。これらのシンチレーションの減衰時定数は、X線や電子線照射においてもサブナノ秒と見積もられ、研究開始当初の目標の一端は達成されたといえる。重粒子線照射においても、その減衰時定数は、測定系の時間分解能以下であった。そのため、重粒子線照射による高密度電子励起状態において、超放射に類似したシンチレーションが生じたのかどうかを判断するのは、現時点では困難である。
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