研究課題/領域番号 |
25630433
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
室屋 裕佐 大阪大学, 産業科学研究所, 准教授 (40334320)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 放射線化学反応 / 水和電子 / 再結合 / 二量体 / 水素発生 |
研究実績の概要 |
放射線照射によって引き起こされる水の放射線分解反応過程を把握することは、軽水炉における構造材料の腐食や溶出の制御のみならず原子力事故における汚染水処理・管理においても重要である。水の放射線分解に伴い水素が発生する現象は古くから知られるが、その発生メカニズムは明確となっていない。これまで水素発生に寄与する主な放射線化学反応は、水のイオン化から生成する水和電子がナノ秒、マイクロ秒領域において再結合する反応であると考えられているが、同じ電荷を持つものがクーロン反発を押しのけて拡散によって十分近付き、更に周囲の水分子を巻き込んでその結合を切らなければ実現しない反応である。4つの化学種が関わる多体反応であることからその反応過程は単純ではない。有力とされるのは過渡状態における電子二量体の形成であるが実験的に観測された例はない。水和電子は短寿命であることから高速な測定手法が必要であり、ナノ秒時間分解能パルスラジオリシス法による測定を通してこれを直接追跡し、拡散反応モデルに基づく数値計算も合わせて行い二水和電子反応過程について検討を進めた。反応過程は初期分布や拡散によって支配されると考えられることから、線量率や温度、pH等を変化させて過渡的挙動を調べた。高線量率且つ高温ほど速やかな反応が起こる一方、高pHでは長寿命化が見られた。二水和電子反応のみならずOHラジカルやプロトンといった競争反応の寄与も明らかにした。二水和電子の反応性は、誘電率の低下する高温側ではクーロン反発によって低下することが予想されたが、反応速度定数はアレニウス型の単調増加の傾向を示し、高温でも速やかな反応を引き起こしていることが分かった。また見かけの反応速度定数がpH依存性を持つことから、二水和電子反応の過程で生じる中間体が、プロトンまたはOH-と相互作用を持つことも示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
水の放射線分解反応に伴う水素発生に支配的に寄与すると考えられている水和電子の反応について、ナノ秒時間分解能パルスラジオリシス法による時間分解分光測定を行うと共に、スパー拡散モデルに基づく数値計算コードも駆使し解明を進めた。反応に関わる重要な要因として初期分布や拡散が考えられることから、線量率や温度、pHを制御しつつ反応性の測定を行い、数値計算もそれらの効果を考慮に入れたものを構築し、収量や反応性について定量的な評価を行った。二水和電子反応はこれまで中性条件下における測定は困難であったが、ナノ秒時間分解測定の適用により中性条件下における測定を行うことができた。反応性はこれまで強アルカリ性且つ水素飽和条件という特殊な条件で評価され、且つイオン強度にあまり依存性しないことから中性条件下でも同様であると考えて良いとされてきた。しかし本研究において中性条件下の反応性を直接評価した結果、強アルカリ性条件下よりも高い反応性を有することが分かった。Debye-Huckel理論より同じ電荷を持つ化学種間の反応性は、中性条件のような低濃度イオン雰囲気下においては低下することから、二水和電子の反応過程においては中間状態が存在し、且つそれがプロトンやOH-と相互作用を持つことが示唆された。高温下の低誘電率条件においても反応は迅速に進むことから、次なる段階である中間状態の反応機構解明に向けた足掛かりを得ることが出来た。
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今後の研究の推進方策 |
二水和電子の反応過程において形成される中間状態について、更にパルスラジオリシスおよびスパー拡散反応計算の両面から研究を進めていく。水和電子の二量体形成には分子動力学計算から断片的な知見が得られており、初期状態として2個の電子を近くに配置してやれば安定なペアとして存在しうることが指摘されているが、その状態が拡散によって実現できるのか初期状態として与えられなければ存在できないのか明らかではない。これまで10 - 30 Gy/pulse程度の線量率で測定を実施してきたが、更なる高線量率(>100 Gy/pulse)を与えれば、拡散過程を経ない直接的な二量体形成を試みることができると考えられる。また、電子二量体は2つのスピン状態を持った電子が束縛状態を形成していると考えられ、ポジトロニウムに似た状態を取るものと考えられる。ポジトロニウムは磁場環境下において寿命を変化させることから、二水和電子についても磁場環境下における時間挙動変化測定も合わせて実施する。
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