研究課題
挑戦的萌芽研究
多くの動物は外部からの感覚刺激がなくても自発的に行動を発現し制御するが、その詳細なメカニズムはほとんどわかっていない。本研究は、全神経回路の接続が明らかにされている線虫Caenorhabditis elegansを対象として、随意行動開始の信号処理を担う神経回路を単一細胞レベルで同定することを目指している。線虫は固形培地上で主に前進しながら餌の探索行動をするが、時々自発的に後退運動を行う。そこで、平成25年度は、明確な外部感覚刺激のない条件下で線虫を自由行動させ、後退開始の信号処理を担う神経回路を探索する系の開発を試みた。我々は、運動中の動物の神経活動を高解像度で測定するために、高速共焦点レーザー顕微鏡に自動追尾装置を組み込んだ顕微鏡システムを開発している。このシステムの操作性をさらに高めるため、顕微鏡の下部光学系を新たに改良した。それにより、動く線虫を広い視野で効率よく見つけながら、神経活動の高倍率のイメージング画像を撮像することが可能になった。さらにプログラムに改良を加え、これまで以上にスムーズな自動追尾に成功している。また、研究実施計画に基づき、所属研究室で開発された高感度のカルシウムセンサー(改良型G-CaMP)を神経系に組み込んだ遺伝子改変動物を複数系統作成した。これらの動物の神経活動を改良した自動追尾顕微鏡システムを用いて解析した結果、自由行動中の運動方向のスイッチングにおいて特徴的な神経活動が観察された。
2: おおむね順調に進展している
平成25年度は、センサーを組み込んだ動物の開発と自動追尾システムの光学測定系開発により、後退開始の信号処理を担う神経回路を探索する系の確立を目標に掲げていた。前者の目標はほぼ達成されており、また後者についても自動追尾顕微鏡システムの操作性が格段に高くなり、作成した動物を網羅的に解析する見通しが立っている。これらのシステムを用いて次年度さらに解析を続けることで、本申請の目標が達成できる可能性があり、おおむね順調に進展していると考えている。
平成25年度に引き続き、センサーを組み込んだ遺伝子改変動物を用いて自由行動中の神経活動を定量的に解析し、自発的な運動方向転換前に活動あるいは抑制されるニューロンを網羅的に探索する。また、感覚ニューロンにチャネルロドプシンを発現させ、後退運動を光刺激で誘発した際の神経活動を測定し、自発的後退運動と刺激による忌避行動を対比して解析する。さらに、自発的なスイッチングに特徴的なニューロン活動をオプトジェネティクスによる光操作で活性化あるいは不活性化して行動への影響を調べ、自発行動に関わる神経回路の同定を目指す。
すべて 2013
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (10件) (うち招待講演 1件)
Mol Biol Cell
巻: 24 ページ: 1584-1592
10.1091/mbc.E12-08-0628.