研究課題/領域番号 |
25640010
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
上川内 あづさ 名古屋大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (00525264)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 聴覚記憶 |
研究実績の概要 |
動物は、時事刻々と変化する刺激の配列情報を、短期間の間、記憶(保持)することができる。しかし、このような「時間要素を含む短期記憶」を成立させる神経回路・分子機構の解明は、あまり進んでいない。この解決のため、本研究では申請者が独自に整備した「ショウジョウバエ聴覚行動実験系」を新規モデルとして確立し、その神経機構を解明することを目的とした。 今年度は、これまでに本申請者らが独自に開発した、聴覚行動出力を定量的に自動解析できるソフトウェア「ChaIN」(Yoon et al, 2013)を利用して、多様に改変した人工音に対する行動出力量の時間変化のモデル化に取り組んだ。音刺激の量と行動量変化との相関を解析することで、時系列に沿った情報を短期貯蔵するシステムの内部構造の理解を進めた。また、このモデルを実装している神経回路実体を同定する目的で、脳内部での聴覚神経回路地図の作成を進めた。約16600種類のGAL4系統をスクリーニングして得られた34系統を解析に利用することで、二次聴覚神経細胞群をほぼ網羅した回路地図を作成した。以上の研究成果により、音情報のような、時間要素を含む短期記憶が貯蔵される場を絞り込むことができた。 そこで次に、細胞群特異的にGAL4を発現するショウジョウバエ系統を用いて神経伝達を阻害するタンパク質を発現させる、という方法を用いて特定の二次聴覚神経細胞の伝達を遮断した個体を遺伝学的に作成し、聴覚行動を解析した。しかし、これまでの解析からは、音情報の短期記憶が阻害された個体は得られなかった。音情報の記憶は、単一種類の神経細胞だけではなく、複数種類の細胞群に分散してコードされている可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「時間要素を含む短期記憶」の成立基盤を理解するためには、優れた実験系の確立が必要不可欠である。本研究計画において私たちは優れた実験系の確立に取り組み、ショウジョウバエの聴覚システムを利用した行動実験の手法を確立することができた。また、「時間要素を含む短期記憶」を介して理解されると想定される音の時間パターンの認識機構の神経基盤を提供する、聴覚神経回路の同定が進展した。以上の成果により、本研究は、おおむね順調に進展していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
今後も引き続き、ショウジョウバエの聴覚システムを実験モデルとした研究を進める。本研究計画において確立した、「時間要素を含む短期記憶」の成立基盤を理解するため行動実験の手法を利用して、音の時間パターンを認識する神経回路機構の解明を行う。具体的には、これまでに同定した聴覚神経細胞群のそれぞれを機能改変が、音認識へどのような影響を与えるかを解析する。光遺伝学や神経伝達を阻害する毒素の発言を時空間的にコントロールすることで、特異的な細胞や時期での機能改変を行う。このように作成したショウジョウバエ個体を用いて、様々な人工音に対する聴覚行動の時間変化を解析することで、「時間要素を含む短期記憶」としての音認識機構が、どのような神経細胞の組み合わせで成立しているかを解明する。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験材料としてのショウジョウバエ系統のスクリーニングを進めた結果、当初の想定よりも少ない数の系統を選出し、実験を進めた。そのため、ショウジョウバエの維持にかかる費用が少なくて済んだ。
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次年度使用額の使用計画 |
オーストリアのストックセンターが保有するショウジョウバエ系統群を新たにスクリーニングすることで、さらに多くのショウジョウバエ系統を選別し、実験に用いることを予定している。そのため、今後は維持する系統数が増加することが予想され、その維持のための費用に使用する予定である。
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