研究課題/領域番号 |
25640019
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 独立行政法人国立精神・神経医療研究センター |
研究代表者 |
沼川 忠広 独立行政法人国立精神・神経医療研究センター, 神経研究所 疾病研究第3部, 室長 (40425690)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 脳神経疾患 / 神経科学 / マイクロRNA / エクソソーム |
研究概要 |
最近、遺伝子をコードしない小さなmicroRNA(以下miRとする)の働きが注目されており、標的とする機能分子の遺伝子を認識してその発現を調節し、細胞に対して影響を及ぼすことで知られる。さらに、疾患特異的なmiRの発現のレベル変動が、病態マーカーとして有用である可能性が示唆され始めている。我々はこれまで、脳特異的なmiRの働きに着目し、神経栄養因子のひとつBDNFでmiR132などが誘導されてシナプス増加などに重要であることを報告している(Numakawa et al., Neurosci lett, 2011)。そこで、本研究では、これらmiRがエクソソームに充填されてニューロンから放出され、他のニューロンに吸収された後に機能を発揮する可能性を検討することにした。本年度では、主としてラット由来の培養大脳皮質ニューロンを用い、BDNF投与など種々の刺激を行い、細胞外に放出されるエクソソームを回収した。そして、その内容物の同定を試みた。また、エクソソームの膜蛋白質と考えられたCD63とGFPを融合させた蛋白質を培養ニューロンに発現させ、結果として細胞外エクソソーム量に違いが生じるかどうかなどの検討を行った。その結果、BDNFの刺激依存的にmiR-9など、いくつかのmiRにおいて細胞外放出量の増加傾向が観察された。同時に、神経ペプチドのひとつGLP-1で刺激を行ったところ、いくつかの内在性miRの発現が経時的に増加する傾向も観察された。外来性のCD63の発現は、ニューロンの細胞内に大きな小胞様に観察され、今後のモニター解析に有用である可能性が考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まず本年度は、培養大脳皮質ニューロンから検出可能な量のエクソソームが放出されていること、およびエクソソーム内に、miRが含まれており、それが定量可能かどうかの検討を行った。ラットの培養大脳皮質ニューロンの細胞外液よりエクソソームを回収する試みを、超遠心を利用する方法、および市販のエクソソーム分離試薬を用いた方法で実施し、いずれも十分なエクソソームが回収された。その後miRの抽出を行い、定量PCRにてmiRを検出したところ、miR-1, -9, -132などが確認できた。我々は既に、神経栄養因子BDNFがグルタミン酸受容体などシナプス関連蛋白質を増加させる働きを持ち、それには細胞内のmiR-132の増加が関与することなどを報告している(Numakawa et al., Neurosci lett, 2011、ほか)。本年度の研究で見出された細胞外放出されたエクソソームにおける含有miRが、実際に別のニューロンに再吸収されるかどうかは今後確認する必要がある。そこで、伝搬エクソソームの可視化の為、エクソソームの表面での局在を想定したCD63蛋白質の導入を試み、蛍光顕微鏡下での観察に成功した。 以上、大脳皮質ニューロンの培養条件、およびエクソソームの回収実験の基礎的条件を検討し、検出感度をあげる必要はあるが、細胞外へのエクソソームの放出とそれがmiRを含有していることを示唆するデータは得られてきているので、本年度の研究達成度は十分であると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
BDNF投与や脱分極刺激等によりニューロンの興奮を引き起こさせ、ニューロンの活動依存的なエクソソームの細胞外放出機構の存在の発見や、そのメカニズムを介して細胞外に運び出されるmiRの特定を試みる予定である。超遠心法などを用いた生化学的なエクソソームの放出の確認に加えて、可視化CD63をマーカーとした細胞内動態や、別のニューロンへの吸収の様子などをイメージング法にて解析する。さらに、刺激依存的に細胞外放出されるmiRの同定後では、その特定miRがニューロンに対していかなる働きかけをするのか、ターゲットしている遺伝子の探索までを目標とする。特定したmiRのエクソソームを介した伝搬により生じるニューロンの質的変化として、細胞の生存率およびシナプス機能への影響を網羅的に解析する。CD63が単なるマーカー分子として有用なのか、それともエクソソームの細胞外放出に影響を与える機能的な分子である可能性はないのか、の確認をする必要もある。BDNFなどの神経栄養因子には、特定のmiRを増加させてニューロン機能変化を引き起こす可能性があるが、その変化においてエクソソーム放出を利用している成分を究明する。BDNFによるシナプス機能の増強では、神経伝達物質放出が必要なステップであるが、同様な細胞間のコミュニケーションにおいてエクソソーム放出が介在する可能性の検討のために、刺激依存的なエクソソーム放出と内容miRの伝搬の詳細な検討が重要である。
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次年度の研究費の使用計画 |
初年度では、培養した大脳皮質ニューロンを主として用い、細胞外液よりエクソソーム回収が可能かどうかの基礎的解析を行った。これには、様々な方法を用いたが、超遠心を用いる方法など、脳以外の組織を用いた研究では従来使用されている方法や、市販のエクソソーム分離試薬を用いた場合においても数種類のmiRの検出に成功した。今後において、培養ニューロンの成熟度の影響の検討、各エクソソーム分離法の最適化と選定、および重要と思われるmiRの特定など実験条件の確定後においても相当のランニングコストが生じると予想され、次年度での十分な実験費用が重要であると考えたため。 エクソソームの分離試薬やmiR検出測定キットなど、通常行う実験に用いるための消耗品に相応の費用が必要である。また、CD63などのエクソソームマーカーを顕微鏡下で追跡するとともに、内在性蛋白質のノックダウンに用いるコンストラクト購入も予定する。本研究によってエクソソームに封入されており、ニューロン間で伝搬する可能性があると予想されたmiRにおいては、その詳細を明らかにするため、強制発現用のDNAコンストラクトや機能阻害のためのアンチセンスを購入し、ニューロンに対してどのような機能を発揮するのかなどを考察するための生化学的実験を行いたい。さらに、実験成果を積み重ね、それを学会発表や論文発表するための旅費、出版費なども必要である。
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