研究課題/領域番号 |
25640030
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研究機関 | 公益財団法人東京都医学総合研究所 |
研究代表者 |
橋本 款 公益財団法人東京都医学総合研究所, 運動・感覚システム研究分野, プロジェクトリーダー (50189502)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | アディポネクチン(APN) / αシヌクレイン(αS) / パーキンソン病(PD) / トランスジェニック(tg)マウス |
研究実績の概要 |
現時点で、パーキンソン病(PD)やその関連する疾患であるレビー小体型認知症(APN)は、アルツハイマー病 (AD)と同様に増加の一途を辿っており、それらの疾患に必要な莫大な医療費、介護の負担は深刻な社会問題である。したがって、これらシヌクレイノパチーの根本治療の開発は、神経変性疾患の基礎研究分野の最も重要な課題の一つである。 我々は、培養細胞やトランスジェニック(tg)マウスなどのシヌクレイノパチー病態モデルを用いて、抗糖尿病因子として知られているアディポネクチン (APN) がこれらの細胞やマウスの系における神経変性所見を軽減することを示した。特に、マウスにおいては、αシヌクレイン(αS)tgマウスの鼻腔からAPNを持続的に投与することにより、αSマウスの運動機能障害の発症が有意に改善されることを観察した。また、APNを鼻腔投与したαSマウスの脳の組織学的解析(免疫組織化学、免疫蛍光染色など)、及び、生化学的解析(ウェスタンブロット)において、αSの凝集・蓄積が緩和されるとを示した。これらの結果は、APNがシヌクレイノパチーの治療に有効である可能性を強く示唆するものであり、これらの成果を論文発表してAPNがPDなどのシヌクレイノパチーの早期治療に有効である可能性を提唱した(Sekiyama et al, Ann Clin Transl Neurol. 2014)。また、新年度を迎えた時点において、APNの神経変性疾患の治療に対する作用特許として米国における国際特許が認められた段階にある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
引き続き、i)APNの投与実験などにおいて見出したAPNの抗神経変性作用のメカニズムを明らかにするため、APN受容体やインスリン受容体のシグナル伝達経路に焦点を当てた研究を、また、ii)αStgマウス以外のマウスに対すしてもAPNの治療効果があるかどうかを判定するために、以前に、我々自身で開発し、新しいDLBのモデルマウスとして論文発表した変異型βシヌクレイン(βsyn)P123Hsyntgマウス(Fujita et al, Nat Commun. 2010)に対するAPNの鼻腔投与実験をそれぞれ開始して、一定の結果を得ている。
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今後の研究の推進方策 |
APNの抗神経変性作用に関する基礎的な知見をより一層深めたいと考えている。この目的のため以下の二つの方向で研究を推進していく。 i)APNの抗神経変性作用のメカニズムを明らかにするため、APNやインスリンの受容体シグナル伝達に関しては、これらのシグナルのクロストークが、細胞の増殖、生存、蛋白凝集の抑制などの調節において重要であることを見出して、さらなる検討を行っている。また、APNやインスリンの作用において、APPL1という分子が関与しており、神経変性下では特に重要であるような予備的結果を得ている。これらの知見を細胞モデル、マウスモデルにおいてさらに検討する。 ii)P123Hβsyntgマウスに対するAPNの鼻腔投与実験をそれぞれ開始している。さらにAPNのKOマウスの交配実験なども進行中であり、APNの抗神経変性作用をより確実なものにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
APNの鼻腔投与実験は、αStgマウスを用いて行い、αSマウスの運動機能障害が改善されることマウス脳の組織学的解析、及び、生化学的解析にも、αSの凝集・蓄積が緩和されるとを示すことができ、これらの成果を論文発表(Sekiyama et al, Ann Clin Transl Neurol.2014)、特許申請を予想より早く行うことができた。余った予算と時間で、論文審査などの過程で、αStgマウス以外の神経変性のモデルマウスに対してもAPNの治療効果があるかどうか?という複数のコメントに対応して、DLBのモデルマウスとして論文発表した変異型βシヌクレイン(βsyn)P123Hsyntgマウス(Fujita et al, Nat Commun. 2010)に対するAPNの鼻腔投与実験をそれぞれ開始した。現在、一定の結果を得ており、次年度中に何らかの結論が出ると期待している。
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次年度使用額の使用計画 |
P123Hβsyntgマウスの維持、グループ分け、このマウスに対するAPNの鼻腔投与実験をそれぞれ開始している。水迷路テスト、運動機能の評価をおこない、安楽死させた後に、マウス脳の組織学的解析、及び、生化学的解析をおこなう。これらの実験によりAPNがP123Hβsyntgマウスの神経変性の抑制に有効であるか判断できると考える。さらにP123HβsyntgマウスとAPNのKOマウスの交配実験なども進行中であり、APNの抗神経変性作用をより確実なものにする。
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