本研究では、ChIP-seq法を用いたマウスの成体脳における特定神回路胞特異的な転写制御配列の体系的な解析と、それを利用した特異的発現を誘導する遺伝子改変マウスの作製を行う。それにより、神経回路レベルでの高次脳機能解析や精神疾患の原因解明に必要な、任意の脳領域の細胞機能・遺伝子機能をノックダウンするためのプラットフォーム作りを目的としている。 本年度は、成体マウス脳における特定神経回路特異的なエンハンサーを得るために、ChIP-seq法を用いて脳の特定領域で働く転写制御配列をゲノムワイドに解析した。成体マウス脳から15の脳領域の組織サンプルを抽出し、転写因子であるP300の抗体を用いてクロマチン免疫沈降法を行った。qRT-PCR法でクロマチン免疫沈降法が効率良く行われていることを確認した後、転写因子と結合しているDNA配列を次世代シーケンサーHiSeq (illumina社)で直接読み取りゲノム上にマッピングした。 ここで得られる転写因子結合配列は、それぞれの脳領域で組織特異的エンハンサーとして働いている可能性が高いと考えられる。また、複数の脳領域のChIP-seqデータを比較することで、特定神経回路特異的な転写制御配列のモチーフが解明されることが期待出来る。それにより今まで明らかにされていなかった中枢神経系の転写制御ネットワークの理解に大きな貢献をすることが期待される。 本研究で得られた特定の神経回路特異的な転写制御配列をCre/loxPとtTA/tetOの技術と組み合わせることで脳の任意の神経回路で時間的・空間的に限定して遺伝学的操作することが可能になる。そのような任意の神経回路特異的な機能解析は、脳神経科学分野における重要課題である高次脳機能や精神疾患の原因解明に大きな貢献をすることが期待される。
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