研究課題/領域番号 |
25640055
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 公益財団法人実験動物中央研究所 |
研究代表者 |
末水 洋志 公益財団法人実験動物中央研究所, その他部局等, 研究員 (40332209)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 肝再生 / 肝幹細胞 / Tg-Fucci-S/G2/M-Greenマウス |
研究概要 |
本研究の目的は肝臓を再構築する能力を持つ「真の肝幹細胞」をバイオアッセイにより特定し、同等の能力を持つ細胞を人工的に作製することである。本研究の主役となるFucci-S/G2/Mタンパク発現トランスジェニックマウス(理研BRCから入手)を解析した。薬剤による肝傷害や部分肝切除により肝再生を誘導したところ、多数のKi-67増殖抗原陽性細胞が肝実質細胞に認められたが、Fucci-S/G2/Mタンパク由来の蛍光シグナルは検出されなかった。そこで研究初年度は肝臓内の全ての細胞(肝実質細胞・非実質細胞)でFucci-S/G2/Mタンパクを発現し、細胞周期に従い蛍光を発するトランスジェニックマウスの樹立から開始した。本研究でも使用予定のTgPgkEGFPマウスでは肝臓内の全ての細胞でGFPが発現していることから、マウスPgkプロモーター/Fucci-S/G2/Mトランスジェニックマウスを作製した。PCR遺伝子検査陽性のファウンダーマウス12匹の取得に成功したが、いずれのマウスも細胞増殖と連動した蛍光発現は認められなかった。現在、Fucci-S/G2/Mタンパクとクサビラオレンジタンパクを共発現するトランスジェニックマウスを作製し、赤色蛍光を発するトランスジェニックマウスの選抜を行っている。 本研究では“既存の肝幹細胞マーカーにとらわれないこと”を重視しており、肝再構築能を有する細胞の発見と新たな肝幹細胞マーカーの創出をめざしている。これまでヒト肝キメラマウス作製に使用した凍結ヒト肝細胞のフローサイトメトリー解析データから、移植後の高生着と関連する候補フラクションの同定に成功した。現在、このフラクションをFACSにて回収し、生着性の評価を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究で使用予定の3種類5系統(肝傷害マウス;2系統、マーカー遺伝子発現マウス;2系統、自家移植マウス;1系統)の遺伝子組換えマウスの開発状況は以下の通り、おおむね順調である。1)肝傷害マウス(肝臓特異的herpes simplex virus thymidine kinase (HSV-tk)遺伝子発現マウス):核酸類似体ガンシクロビル(GCV) 投与により肝傷害が誘導されるTgTK マウスは、既に開発済みのAlb-TKマウス1系統に加え、Albとは異なるプロモーターで発現制御するTgTK マウスを作製した。5匹のファウンダーマウスの取得に成功し、1ラインでGCV投与による肝傷害誘導が確認できた。このラインではヒト肝細胞の生着も確認できたことから本研究に使用予定である。2)マーカー遺伝子発現マウス1(細胞周期マーカー発現マウス;TgFucci-S/G2/M)は多くのファウンダーマウスの取得にもかかわらず目的通り、肝再生時に蛍光を発するトランスジェニックマウスの取得には至らなかったが、マーカー遺伝子発現マウス2(肝実質細胞を含む全身性蛍光タンパク発現マウス;TgPgkEGFP)の系統化は順調に進み、実験の他、非常時に備え凍結胚による保存を行うことができた。マウス肝臓から再構築能を有する肝幹細胞の単離をめざす本研究では生着性評価が自家移植系となるため、ヒト肝細胞移植時のようにアルブミン産生での評価が行えず、困難である。自家移植マウス(マウスアルブミン遺伝子欠損マウス;mAlbKO)の使用はこの問題を克服する最善の方法となる。初年度後半にNOGマウスへの戻し交配が終了し、免疫不全化が完了した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究で最も重要なのは期待通りに目的遺伝子タンパクを発現するトランスジェニックマウスの作製である。通常のトランスジェニックマウスでれば、表現型の確認が比較的容易である。たとえばサイトカイン産生Tgマウスであれば、採血/ELISAで目的マウスの選抜が可能である。一方、通常では増殖性のない肝臓において、細胞周期マーカータンパクが適切に発現しているかどうかを評価するのは困難である。そこで導入遺伝子が肝臓で発現していることを確認するため、赤色蛍光タンパク遺伝子をIRESや2Aペプチドで共発現させる、あるいは別の発現ユニットを連結し重発現させるなどの方法により、Fucci-S/G2/Mタンパクが肝臓で確実に機能するトランスジェニックマウスの取得をめざす。 細胞周期マーカー発現マウス(TgFucci-S/G2/M)以外は順調に系統化が進んでいることから、次の複合マウスを作製し先行して肝再構築能評価を行う。1)宿主:雄TgAlb-TK-AlbKO/KO:TgAlb-TKマウスは雄性不妊なので、雌TgAlb-TKマウスと雄AlbKO/KOの交配を2回繰り返し、雄TgAlb-TK-AlbKO/KOを取得する。2)ドナー:雄TgAlb-TK-TgPgkEGFP:TgAlb-TKマウスは雄性不妊なので、雌TgAlb-TKマウスとTgPgkEGFPの交配により、雄TgAlb-TK-TgPgkEGFPを取得する。 初年度、コラゲナーゼ処理による肝細胞単離系が確立できたので、GCV投与、あるいはチオアセトアミド投与により肝再生を誘導した雄TgAlb-TK-TgPgkEGFPドナーマウスから肝細胞を単離し、フローサイトメトリーで解析を行う。凍結ヒト肝細胞の解析で同定した生着性に関連するフラクションを特定し、上記雄TgAlb-TK-AlbKO/KO宿主マウスに移植して生着性を評価する。
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次年度の研究費の使用計画 |
通常では増殖性のない肝臓において、増殖期に蛍光を発するFucci-S/G2/Mタンパクトランスジェニックマウスの作製を繰り返しているが、期待通りの表現型を呈するマウスが取得できていない。これにより、本マウスを用いた肝傷害誘導、肝細胞単離、再移植実験が予定より遅れているため、予定した試薬等の購入も遅れている。 確実にマウス肝臓に生着する凍結ヒト肝細胞のフローサイトメトリー解析から、生着性に関連する集団の特定に近づいている。初年度、生着性の高い凍結ヒト肝細胞の購入を予定していたが、希望するロットが入手できず執行が見送られた。同等の生着性を示す凍結ヒト肝細胞を早急に入手するため、ロット試験を行う。 初年度、希望するロットが入手できず執行が見送られた凍結ヒト肝細胞の購入について、ロット試験の結果が得られ次第入手し、解析に供する。Fucci-S/G2/Mタンパクトランスジェニックマウスについて、2種類の遺伝子発現ベクターを構築し細胞レベルで発現の確認を行った。期待通りの蛍光発現が確認できた発現ユニットを用いて、マイクロインジェクション法によりファウンダーマウスの取得を行う予定である。 その他の系統については予定通りに進行していることから、当初計画通り、平成26年度に予定した物品を購入し実験を進める。
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