Phospholipase A2 group IV c (Pla2g4c)遺伝子が欠失したHirosaki hairless rat(HHR)では乳がんの発生率が低下し、腫瘍のサイズも小さいことを最近見出した。しかし、がんを制御する遺伝子としてPla2g4cはこれまでにどのような機能を担っているのか、どのような機構でがんが抑制されるのかについて報告例はない。そこで、申請者はPla2g4cのがん生物学的な機能を分子生物学的な手法により解明を試みた。 免疫染色の結果からラットの乳腺ではPla2g4cは乳腺上皮細胞に局在することが明らかになった。Pla2g4cをsiRNAでノックダウンした乳腺腫瘍細胞 (RMT-1) の遺伝子発現をDNAマイクロアレイで解析した結果、乳腺の退縮時に発現が亢進することが知られているLipocalin2(Lcn2)の発現が大幅に亢進することが明らかになった。さらに、生存細胞数の測定およびフローサイトメトリー法によるSubG1期の割合算出を行ったところ、Pla2g4cのノックダウンによる細胞数の減少およびアポトーシス細胞の増加は、Lcn2を同時にノックダウンすることによって回復した。また、Pla2g4cノックダウンによる細胞数の減少およびアポトーシス細胞の増加はCaspase阻害剤を添加しても変化しなかった。Pla2g4cをノックダウンしたRMT-1をNF-kB阻害剤で処理しLcn2の発現量を定量した結果、濃度依存的にLcn2の発現量が減少した。以上より、乳がん細胞においてPla2g4cはNF-kBを制御することでLcn2の発現とアポトーシスを抑制していることが示唆された。
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