研究実績の概要 |
がんの全ゲノムシークエンス解析により新たなゲノム構造異常としてchromothripsis(染色体粉砕)が発見された。一度の破壊的なイベントにより染色体局所領域に数十~数百ものゲノム再構成が起きる現象である。多段階のゲノム構造異常とは違った生成機構が示唆されるがその詳細なメカニズムは不明である。chromothripsisは全がんの2-3%に検出され、予後不良の指標にもなっている。したがって、chromothripsis生成機構の解明は、新たなゲノム不安定性機構の理解と、がんバイオマーカーや分子標的薬の開発に重要である。申請者は、chromothripsis生成機構において放射線誘発による集中的なDNA二重鎖切断とランダム修復が関与するとの可能性を考え、口腔がん細胞株 (HOC313, HOC313-LM)を対象にマイクロビーム照射装置 (SPICE)を用いて標的細胞核の一部に陽子線を照射し、ゲノム不安定性を誘発した後、複数のクローンを樹立しゲノム構造解析を行った。SNPアレイ解析において一株 (LM-200-#25)にchromothripsis様のゲノム一次構造異常を検出した。その後、Multi-color FISH法を施行した結果、7番、11番、12番染色体を巻き込む複合転座が検出され、特定の染色体に限局した構造異常が観察された。次に、次世代シークエンサーを用いた全ゲノム解析によりchromothripsisに特有のDNA再構成の有無を調べたところ、塩基レベルでの再構成数は親株HOC313-LM に比しLM-200-#25株で増加しており、chromothripsisの生成機構の背景に、DNA二重鎖切断の頻度の増加とそれに連続するミスマッチ修復が関与する可能性が示唆された。
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