研究課題/領域番号 |
25640064
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
井垣 達吏 京都大学, 生命科学研究科, 教授 (00467648)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | がん / 遺伝的不均質 / 細胞間相互作用 / ショウジョウバエ / 遺伝学 |
研究概要 |
進行したがん組織には、遺伝的背景が異なる複数の変異細胞のサブクローンが存在する(遺伝的不均質)。このようながん組織の遺伝的不均質性は、薬剤耐性のみならず、がんの進展にも深く関与すると考えられている。 しかし、同一組織内に複数の変異細胞サブクローンが混在することでいかにしてがんの進展が促されるのか、その分子機構については不明な点が多い。本研究では、2種類の異なる遺伝子発現制御システムを同時に適用することで組織内に複数の変異細胞サブクローンを作り出すショウジョウバエ遺伝的モザイク法「Coupled-MARCM法」を利用し、がん組織での遺伝的不均質をショウジョウバエ生体内で再現することで、異なるがん遺伝子を活性化した細胞同士の相互作用により駆動される腫瘍悪性化の分子基盤を明らかにすることを目的とする。 平成25年度は、Src活性化細胞クローンとRas活性化細胞クローンの相互作用による腫瘍悪性化機構の遺伝学的解析を行った。Coupled-MARCM法を用いて、ショウジョウバエ3齢幼虫の複眼原基の上皮組織にGFPで標識した活性化型Ras(RasV12)発現細胞クローンとRFPで標識したSrc発現細胞クローンを隣接するように誘導すると、Src活性化細胞クローンは増殖能を亢進するだけでなく浸潤能を獲得し、隣接組織であるventral nerve cordへと浸潤・転移することが分かった。この細胞クローン間相互作用を介した腫瘍悪性化の分子機構を遺伝学的に解析した結果、両クローン間においてNotch-Deltaシグナルの活性制御が行われていること、および細胞膜上でapico-basal極性に関与するタンパク質Crbの特異的な発現制御が行われていることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、ショウジョウバエCoupled-MARCM法を利用し、がん組織でのがん遺伝子活性の遺伝的不均質をショウジョウバエ生体内で再現することで、異なるがん遺伝子を活性化した細胞同士の相互作用により駆動される腫瘍悪性化の分子基盤を明らかにすることを目的とするものである。これまでの本研究により、Src活性化細胞クローンとRas活性化細胞クローンの相互作用によってSrc活性化細胞が悪性化(浸潤・転移能の獲得)を引き起こすこと、さらにはこの際に両クローン間でNotch-Deltaシグナルの活性制御および細胞間相互作用に重要な役割を果たすと考えられるCrbの発現制御が行われていることを明らかにすることができており、研究はおおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究ではこれまでに、Src活性化細胞クローンとRas活性化細胞クローンの相互作用によってSrc活性化細胞が悪性化を起こすこと、およびこの際両クローン間でNotch-Deltaシグナルの活性制御およびCrbの発現制御が行われていることを明らかにしてきた。そこで今後は、これらNotch-Deltaシグナルの活性制御およびCrbの発現制御が両クローン間の相互作用によって引き起こされるSrc活性化細胞の悪性化にどのように関与するのか、その分子基盤を遺伝学および生化学的アプローチにより明らかにしていく。加えて、Src活性化細胞はHippo経路のターゲットである転写コアクティベーターYkiの活性をJNK活性依存的に隣接細胞へと伝播することで、周辺細胞の増殖を 細胞非自律的に促進することが分かっているため、Yki活性の伝播機構、およびYki活性とSrc活性の協調による浸潤・転移能の獲得機構にも着目して解析を進めることで、この現象の分子機構の解明を目指す 。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究の遂行上、現存のショウジョウバエ系統を用いた遺伝学的解析を主に行うこととなったため、消耗品費等への支出が予定よりも減少することとなった。 次年度使用額は消耗品費に充てるとともに、技術補佐員を雇用して本研究を強力に推進する。
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