研究課題
挑戦的萌芽研究
2種類の肺癌クローン細胞を異なる比率で混ぜてマウスに接種した場合、割合に関わらずいつも一方のクローンが優位になります。このことは癌細胞同士には生存競争が存在し、より悪性度の高い癌細胞クローンが優位になるClonal dominanceが存在することを示しています。つまり、癌は“一人勝ちを望む”ということです。この古い研究にヒントを得て癌細胞のクローン間での生存競争を治療に応用できないかと考え、 人工的に悪性度の高い“スーパー癌細胞”を作成し、“普通癌細胞”と生存競争させることによって後者の増殖を抑制する試みを提案しました。まず最初にモデル系の構築を行いました。“スーパー癌細胞“として、強力な白血病遺伝子“bcr-abl”を、“普通癌細胞”として、bcr-ablの下流に存在し、bcr-ablより弱い形質転換能を持つがん遺伝子Stat5を、それぞれマウスB細胞株BaF3細胞に導入した安定株を作成しました。これら癌細胞株を試験管内、マウス生体内で、共培養、共接種、単独培養、単独接種した時の、細胞増殖、および腫瘍増殖を調べました。その結果、試験会内、マウス生体内双方において“スーパー癌細胞”が“普通癌細胞”の増殖を抑制しました。よってこのモデル系が、”癌が一人勝ちを望む”性質を研究するために適したシステムであることを明らかにしました。特に、マウス生体内においては“癌の一人勝ち”性質が、試験管内よりも著明に表れ、癌細胞のみならず、生体内のがん微小環境が、”癌の一人勝ち”メカニズムに強い影響を及ぼすことを見出しました。そこで、スーパー癌細胞の腫瘍量を制御するためのシステム構築と癌がclonal dominanceを好む理由、“癌が一人勝ちを望む”分子メカニズムの解析を行いました。
2: おおむね順調に進展している
スーパー癌細胞にはGFPが導入されています。そこでスーパー癌細胞普通癌細胞をMixして導入したマウスに発生した腫瘍組織標本に対して、GFP染色を行いスーパー癌細胞と普通癌細胞の腫瘍内の局在を検討しました。その結果スーパー癌細胞と普通癌細胞が、一細胞単位で交ざり合って増殖していることが明らかとなりました。よって、個々の細胞の接触による相互作用が重要な機能を持つと考えました。新たにDsRED蛍光色素を普通癌細胞に導入し、これまでの試験管内、マウス生体内で得られた結果を再現できました。そこで、FACSセルソーターを用いてGFP陰性DsRed陽性細胞を分離し、普通癌細胞単独、スーパー癌細胞とのMIXを接種したマウスに発生した腫瘍で、GFP陰性DsRed陽性普通癌細胞の遺伝子プロファイルをcDNAアレイを用いて解析しました。その結果、両者で大きな差を認める遺伝子群が多数存在しました。2倍以上の発現差を認めたものが3671プローブ、5倍以上が820プローブ、10倍以上が248プローブ存在しました。その一つがイムノグロブリン遺伝子群でした。他にも、興味深い遺伝子群が変化しており、10倍以上発現変化した遺伝子群284個に対してKEGGによるパスウェイ解析を行ったところ免疫に関連す る遺伝子群が有意に両者で差があることが明らかになりました。
汎用性の高いチミジンキナーゼを用いた自殺遺伝子の発動は、このシステムにおいては、感受性が弱いことが判明しました。そこで、イマチニブを用いたスーパー癌細胞の腫瘍量制御システムを用いて生存期間延長が果たせるか否か検討します。難しいようなら中断して、以下に述べる分子メカニズムに焦点を絞って研究を進めていこうと思います。癌が一人勝ちを望む”分子メカニズムの解析については、上記の情報を基に、”がんが一人勝ちを望む”メカニズムを解明し、更にどうして、そのような性質が癌に備わったのか。という点にも踏み込めたらと思っています。まず、上記現象を引き起こす重要な因子が病理組織像によって示唆された細胞間接触によるものかを検討します。2チャンバー培養を用いて、スーパー癌細胞と普通細胞を分けて培養した時に、1つのチャンバーで共培養した際に認められたスーパー癌細胞による普通細胞の増殖抑制が認められるか否かを調べます。細胞間接触が大切であることがわかれば、スーパー癌細胞と普通癌細胞の共培養に種々の抗体を用いて、どの分子がこの現象の鍵分子であるかを明らかにします。
前年度に他の研究で購入したマウス試薬が使用でき、思ったほど、消耗品を購入する必要がなかったため得られている現象の分子学的機序を明らかにするために、各種のアレイを施行する。そのため、遺伝子アレイ、抗体アレイを購入する。また、研究の加速化のために、人件費としても使用する。
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http://kotani.med.u-tokai.ac.jp/