本研究の目的は、転座・逆位を含む包括的なゲノム構造解析を高精度・高感度に可能とする新規システムを開発することである。本システムの原理は環状化DNA結合両末端(メイトペア)解析を基本とし、DNA断片へ固有塩基配列を導入し2段階DNA環状化を行うことで、「単分子DNA環状化」由来の正確なメイトペア配列のみをコンピューター上(in silico)で選別可能とする方法である。本法でもちいるアダプターは制限酵素サイト(X)、(Y)および特異的塩基配列(N)から構成されており、特異的配列のランダム塩基(N)は同一アダプター内では同配列が並ぶよう設計している。本アダプターをDNA断片に付加した後、(X)切断後に自己環状化を行い、次に(Y)切断し2段階目の自己環状化を行う。この2段階DNA環状化により、アダプター内の特異的配列の組み合わせパターンが変化し、(a)Right:特異配列が同一である「正確なメイトペア」、(b)Error:特異配列が合致しない「偽メイトペア」、(c)Incomplete:環状化過程が進行しなかった「不完全メイトペア」に区別することができ、正確なメイトペア配列情報のみを抽出することが可能となる(in silico selection)。本システムの開発を行う過程で、一部に制限酵素での切断不全のため環状化がうまく進まないクローンが混入する問題が生じたが、複数の制限酵素サイトを挿入することにより解決した。本システムにより、K562細胞株において9番および22番染色体における転座のゲノム構造異常を検出することが可能であることが確認され、ATLにおいても複雑なゲノム構造異常を検出している。本システムは腫瘍ゲノム構造解析に有用な新規ツールであり、今後はデータ解析システムの一般化と合わせ臨床応用を進めていく。
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