本研究は2DICAL法という無標識サンプル間比較解析が可能な定量性プロテオミクス解析システムを構築し、癌臨床検体の網羅的解析を行うことを目的としている。この目的達成のため、様々な癌細胞株や癌臨床検体を用いて、2DICAL法による質量分析測定を行った。さらに、我々が現在焦点を当てて研究を進めているいくつかのリン酸化酵素について、2DICAL法を用いて会合分子の単離やリン酸化部位の同定を試みた。その一つである、細胞周期に関わるMps1というキナーゼが、分裂期において染色体を凝集するコンデンシンIIのサブユニットであるCAP-H2を特異的にリン酸化することを見出し、2DICAL法の解析システムを応用してこのリン酸化部位の同定を試みた。その結果、これまでに報告のない新たなリン酸化部位を一カ所同定することに成功した。リン酸化部位に関連する様々な変異体による解析から、このリン酸化はコンデンシンが分裂期前期にクロマチンにリクルートされるために必須であることを明らかにした。この結果、Mps1によるリン酸化によりコンデンシンの局在が制御されることが、M期初期における染色体構築に重要な機能を果たすことが示唆された。以上より、2DICAL法はリン酸化修飾の同定にも極めて有効なシステムであることが判明した。今後は、他の翻訳後修飾、例えばアセチル化やユビキチン化などの同定にも応用できるかについても、検討を進めていく予定である。
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