研究課題/領域番号 |
25640085
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
浅野 竜太郎 東北大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (80323103)
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研究分担者 |
梅津 光央 東北大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (70333846)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 癌 / 蛋白質 / バイオテクノロジー / 生物・生体工学 / 四重特異性四価抗体 |
研究実績の概要 |
低分子二重特異性抗体は、高機能性と低分子性を兼ね備えた魅力的な分子であり、次世代抗体医薬の形態として期待されているが、通常のIgG型の抗体に比べて、結合価数と体内半減期が減少することが大きな問題となっている。本研究は、これらを多量体化により解消し、さらに合計4種類の抗体を用いることで、その多量体構造を完全に制御すると同時に、複数の機能性抗体の相加・相乗効果により、飛躍的に薬効を高めた低分子四重特異性四価抗体の創製を目的としている。 本年度は、前年度調製を目指した三重特異性四価抗体(EGFR/CD3-EGFR/CD16)の開発を引き続き進めた。これまでに大腸菌発現系を用いて調製したEGFR/CD3-EGFR/CD16ががん細胞傷害活性を示すことは確認できているが、期待するような活性の増強はみられていない。多量体構造の解析を進めるために、調製量の向上を目指した培養条件の検討を行ったが、発現誘導時期、および培養温度の検討では、優位な発現量の上昇はみられなかった。そこでドメイン間のかい離―再会合が促す変異導入の検討を行った。従来型の低分子二重特異性抗体の会合界面に電荷的な反発を生み出すためのアミノ酸置換を行った4種類の変異体を作製し、それぞれ大腸菌発現系を用いて調製したところ、興味深いことに野生型に比べ収量が向上した変異体や、比活性が向上した変異体がみられた。続いて、電荷的に相補的になるように変異体同士を混合させ、四価抗体の生成を促したが、四量体への移行はみられなかったため、今後は共発現ベクターも利用して進める予定である。 一方、異なる抗EGFR抗体の可変領域を加えた四重特異性四価抗体(EGFR/CD3-EGFR'/CD16)の設計も進めた。大腸菌発現系だけではなく、動物細胞発現系用のベクターを設計し構築たため、今後、それぞれの宿主を用いて調製、機能評価へと進める予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
前年度は、Ex3と名付けたdiabody型低分子二重特異性抗体を基盤に、NK細胞表面抗原であるCD16への特異性も付与させた三重特異性四価抗体(EGFR/CD3-EGFR/CD16)の開発に向けて、予定通り発現ベクターを作製し、大腸菌を用いて組換え体を調製後、ガン細胞傷害性試験へと進めることができた。一方で、傷害活性はみられたものの、優位な活性の増強はみられなかったため、実際には期待する三重特異性四価抗体が再構成されていない可能性が考えられた。そこで、本年度は解析を進めるための培養検討や、ドメイン間のかい離を促すような静電斥力を生み出す荷電性アミノ酸ペアの導入検討を行ったが、二重特異性抗体としての比活性の向上という副次的な結果は得られたものの、四量体分子、即ち四価抗体の調製量の向上には至らなかった。このため、四種類の抗体を用いた四重特異性四価抗体の作製も並行して進めることとし、異なる抗EGFR抗体の可変領域を加えた四重特異性四価抗体(EGFR/CD3-EGFR'/CD16)の設計を行った。四重特異性四価抗体は環状構造を期待しているが、より多角的に研究を進めるために環状型に加えて直鎖状型の四重特異性四価抗体の開発、さらには真核細胞を用いた発現系の利用も目指し、動物細胞発現系用のベクターの設計および作製を行った。動物細胞発現系を用いることで、三重特異性四価抗体の調製も進むことも期待でき、研究としてはより発展しているが、当初の予定にはなく、研究期間を延長して進めることとしたため、やや遅れているとした。
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今後の研究の推進方策 |
前年度に引き続き、異なる2種の抗EGFR抗体と抗CD3抗体、および抗CD16抗体を組み合わせた四重特異性四価抗体(EGFR/CD3-EGFR'/CD16)の調製を進める。大腸菌発現系用、および動物細胞発現系用のベクターはそれぞれ構築済みであるため、それぞれ並行して進める。一方で、動物細胞に関しては、収量が少ない場合に精製が困難であることが予想される。そこでプロテインA樹脂を用いた簡便な精製が可能なヒト抗体のFc領域を融合させることも視野に入れて検討を進める。申請代表者らは、Fc領域を融合させる際に特異的なプロテアーゼの認識配列を導入することで、プロテインA精製後に比較的簡便にFc領域を除去できる手法を開発している。融合の際にはこのプロテアーゼ認識配列の導入、精製後のFc領域の切断を前提に進めるが、低分子抗体ではなくなるもののFc領域が融合された状態では多価効果により、より高い薬効を示すことが期待されるため、進捗に応じてはFc領域が融合された状態での評価も進める。またこれらの動物細胞発現系を用いた検討が良好であれば、三重特異性四価抗体の調製も併せて進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
環状型の四重特異性四価抗体を大腸菌を用いて調製し、各種機能評価により得られる結果を基に成果をまとめる予定であったが、より多角的に研究を進めるために研究計画を一部変更し、環状型に加えて直鎖状型の四重特異性四価抗体の開発、および真核細胞を用いた発現系の利用も目指し、動物細胞発現系用のベクターの設計および作製を行ったが、すべての機能評価の完了には至らなかったため未使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
未使用額を用いて四重特異性四価抗体の開発を引き続き進める。大腸菌発現系用、および動物細胞発現系用のベクターはそれぞれ構築済みであるため、それぞれ並行して進める。動物細胞に関しては、収量が少ない場合に精製が困難であることが予想されるため、新たな分子デザインやヒト抗体由来のFc領域との融合も視野に入れつつ開発を進め、異なる2種の抗EGFR抗体と抗CD3抗体、および抗CD16抗体を組み合わせた四重特異性四価抗体(EGFR/CD3-EGFR'/CD16)の調製と機能評価を目指す。
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