家族性乳がん原因遺伝子BRCA1はその生殖細胞系列変異により、乳がん、卵巣がんを引き起こすがん抑制遺伝子で、近年は難治性乳がんのTriple negative乳がんとの関わりが注目されている。BRCA1変異による家族性乳がんやBRCA1の発現量が低い散発性がんは、DNA架橋剤である白金製剤や分子標的治療薬であるPoly(ADP-Ribose) Polymerase (PARP)阻害剤に高感受性であるが、タキサン系薬剤には抵抗性で、BRCA1の発現量により抗がん剤感受性が異なる。我々は、BRCA1の新規結合分子を同定し、この新規BRCA1結合分子BRCA1-interacting protein (BIP)がDNA損傷応答に関与し、BRCA1の発現量を制御することを発見した。本研究はこの分子によるBRCA1の発現量制御機構を解明し、この機構に関与する分子の治療のバイオマーカーや分子標的としての有用性を検討し、難治性のTriple negative乳がんを克服する個別化医療を開発することを目的とした。本研究により、BIPがBRCA1だけでなく、BARD1の発現量も制御することが明らかになった。しかし、そのメカニズムは異なり、BIPは、RINGドメインを持ちE3ユビキチンリガーゼ活性をもつが、BRCA1の発現量の制御はこの活性に依存せず、BARD1の発現量の制御にはこの活性が重要であることが明らかになった。また、各種がん細胞株を用いた解析により、BIP とBRCA1の発現量に負の相関関係があることも明らかになった。
|