本研究は、抗がんタンパクの分泌産生能を遺伝子改変により付与した細菌類を、生体に直接投与してがんを治療する細菌マシンとして活用する戦略のProof of Conceptの取得を目的としている。昨年度までは、腫瘍への直接投与により生体内抗がんタンパク産生装置として働き抗腫瘍効果をもたらすブレビバチルス菌の有用性について評価を行ったが、本年度は、静脈内投与後、腫瘍組織選択的に2週間程度生育する大腸菌K-12株について、murine tumor necrosis factor-alpha (mTNF-alpha)の分泌発現株を作製し、抗腫瘍効果について検証を進めた。まず、mTNF-alphaを効率的に分泌させるために複数の分泌シグナルペプチドによる発現を比較し、ompAタンパク由来の配列を使用することとした。また、生体内でのアラビノース誘導性のmTNF-alpha産生を指向し、pBADを発現ベクターとして用いた。担がんマウスに対して静脈内投与し抗腫瘍効果の評価を行ったところ、予期せず、TNF-alphaを分泌しない対照群の大腸菌において顕著な腫瘍の増殖抑制効果が認められた。そこで、摘出した腫瘍組織の切片を作製し、免疫組織染色を行ったところ、特にリンパ管マーカーの発現の増加などが認められ、大腸菌の投与により、がん微小環境が大きく変化していることが示唆された。この結果は、静脈内投与が可能な大腸菌を宿主とした治療用細菌マシンの開発において、適切な分泌抗がんタンパクの選択により、大腸菌自体によるがん微小環境改変との相乗効果を期待させるものであり、大腸菌とがん組織の相互作用についてより詳細な研究の蓄積の必要性を示している。
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