本研究は、『遺伝要因』を父・母由来別のゲノム情報として分別し、生育過程における『環境要因』を介して学習行動において脳部位特異的にいかに表象されているかを遺伝子発現レベルで明らかにすることを目指し研究を進めてきた。この目的のために、種特異的な囀りパターンを学習によって獲得する鳴禽類ソングバードの異種間ハイブリッド個体を用い、音声発声学習過程における発声行動表現型(音声発達変化・学習戦略・固定化した発声パターン)に着目した研究を進めてきた。 これまでの研究成果は大きく次の3点である。 1. 脳内発現遺伝子群の種特異的SNPsの抽出のためのRNA-seq:Zebra finchとOwl finch各5個体分の全脳mRNAを個体別にアダプターを付加し、Zebra finchとOwl finchでそれぞれ1レーン分のRNA-seqを実施した。その後の次世代シークエンス解析によって、種特異的SNPsの同定を行った。 2. Hybrid個体から脳部位特異的遺伝子発現情報を得るためのRNA-seq:Owl finch/Zebra finch hybrid個体(各5個体分)より発声学習・生成に重要な神経核であるHVC、RA部位から得たmRNA抽出・増幅したサンプルを、個体別にアダプターを付加し、神経核HVC、RA領域でのRNA-seqを実施した。その結果、種特異的遺伝子発現制御を受ける遺伝子群の同定に成功した。 3.ソングバード・ハイブリッド個体の発声学習発達行動の詳細な解析の結果、学習初期の段階で音響特性の出力にすでに大きな個体差が存在することを発見した。
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