新概念「ヒストンマルチ化学修飾酵素による転写制御」の提唱

2015 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 25640098
• 研究機関: 東京大学
• 研究代表者: 稲垣 毅 東京大学, 先端科学技術研究センター, 特任准教授 (10507825)
• 研究期間 (年度): 2013-04-01 – 2016-03-31
• キーワード: クロマチン構造 / ヒストン / JMJD1A / JMJD1B / エピゲノム / 脂肪細胞分化

研究実績の概要

JmjCドメインを持つタンパク質群はヒストン脱メチル化酵素として働いて遺伝子発現制御を行うことが知られている。本研究では、これらのタンパク質が単一のヒストン修飾にのみ関与するのではなく、複数のヒストン修飾を制御して働くという仮説のもとに研究を行った。その結果、JmjCドメインを持つタンパクが複数の転写制御機構に関与することが明らかになった。JMJD1Aはヒストン脱メチル化酵素として働くほかに、リン酸化を受けることでARID1A、BRG1、BAF60といったSWI/SNF複合体と核内受容体PPARγ、C/EBPα、C/EBPβと結合して複合体を形成し、動的なクロマチン構造変化をひきおこすことでプロモーターとエンハンサーを近接化させ、褐色脂肪細胞における熱産生遺伝子発現制御に関わることが明らかになった。また、JMJD1B (FBXL10)はヒストン脱メチル化酵素として働くことが報告されているが、脂肪細胞分化過程においてSKP1、BCOR、PCGF1、RING1Bといったタンパクとともに Polycomb repressive complex 1 (PRC1)複合体を構成してクロマチン構造をヘテロクロマチン状態に制御することが明らかになった。これらのことから、JmjCドメインを持つヒストン脱メチル化酵素が、一方では複合体形成を行うことでクロマチン構造を変換させることで遺伝子発現を制御するという、全く新しい「ヒストン修飾酵素によるクロマチン構造を介した転写制御機構」という概念を提示するに至った。

研究成果

• [雑誌論文] Transcriptional and epigenetic control of brown and beige adipocyte cell fate and function (2016)
  • 著者名/発表者名: Inagaki T., Sakai J, Kajimura S.*
  • 雑誌名: Nature Reviews Molecular Cell Biology 巻: 掲載確定 ページ: 掲載確定
  • 査読あり / 国際共著 / 謝辞記載あり
• [雑誌論文] JMJD1A is a signal-sensing scaffold that regulates acute chromatin dynamics via SWI/SNF association for thermogenesis (2015)
  • 著者名/発表者名: Abe Y., Rozqie R., Matsumura Y., Kawamura T., Nakaki R., Tsurutani Y., Tanimura-Inagaki K., Shiono A., Magoori K., Nakamura K., Ogi S., Kajimura S., Kimura H., Tanaka T., Fukami K., Osborne T.F., Kodama T., Aburatani H., Inagaki T.*, Sakai J.* (*Corresponding author)
  • 雑誌名: Nature Communications 巻: 7;6 ページ: 7052
  • DOI: 10.1038/ncomms8052
  • 査読あり / オープンアクセス / 国際共著 / 謝辞記載あり
• [雑誌論文] Research perspectives on the regulation and physiological functions of FGF21 and its association with NAFLD. (2015)
  • 著者名/発表者名: Inagaki T.*
  • 雑誌名: Front. Endocrinol. (Lausanne) 巻: 6 ページ: 147
  • DOI: 10.3389/fendo.2015.00147
  • 査読あり / オープンアクセス
• [雑誌論文] H3K4/H3K9me3 bivalent chromatin domains targeted by lineage-specific DNA methylation pauses adipocyte differentiation. (2015)
  • 著者名/発表者名: Matsumura Y., Nakaki R., Inagaki T., Yoshida A., Kano Y., Kimura H., Tanaka T., Tsutsumi S., Nakao M., Doi T., Fukami K., Osborne T.F., Kodama T., Aburatani H., Sakai J.
  • 雑誌名: Molecular Cell 巻: 60 ページ: 584-596
  • DOI: 10.1016/j.molcel.2015.10.025
  • 査読あり / 国際共著 / 謝辞記載あり
• [学会発表] 転写調節因子とクロマチン構造変化を介した糖脂質代謝制御機構の解明 (2016)
  • 著者名/発表者名: 稲垣 毅
  • 学会等名: 第89回日本内分泌学会学術総会
  • 発表場所: 京都国際会館 (京都府)
  • 年月日: 2016-04-09
  • 招待講演
• [学会発表] 寒冷刺激に応答するクロマチン構造の調節機構 (2015)
  • 著者名/発表者名: 稲垣 毅
  • 学会等名: Adiposcience in Hiroshima 2nd
  • 発表場所: Oriental Hotel Hiroshima (広島県)
  • 年月日: 2015-11-25
  • 招待講演
• [学会発表] Regulation of Higher-order Chromatin Structure during Thermogenesis in Brown Adipocytes (2015)
  • 著者名/発表者名: 稲垣 毅、阿部 陽平、Royhan Rozqie、松村 欣宏、梶村 真吾、酒井 寿郎
  • 学会等名: The 46th NIPS International Symposium
  • 発表場所: Nagoya Congress Center (愛知県)
  • 年月日: 2015-10-03
  • 国際学会 / 招待講演
• [学会発表] エピゲノム研究から見た一卵性双生児 (2015)
  • 著者名/発表者名: 稲垣 毅
  • 学会等名: 第 16 回日本内分泌学会関東甲信越支部学術集会
  • 発表場所: 幕張メッセ国際会議場 (千葉県)
  • 年月日: 2015-09-26
  • 招待講演
• [学会発表] アディポバイオロジーを制御するヒストン脱メチル化酵素JMJD1Aの修飾シグナル (2015)
  • 著者名/発表者名: 稲垣 毅、阿部 陽平、Royhan Rozqie、松村 欣宏、梶村 真吾、児玉 龍彦、油谷 浩幸、酒井 寿郎
  • 学会等名: 第５８回日本糖尿病学会年次学術集会
  • 発表場所: 下関市民会館 (山口県)
  • 年月日: 2015-05-22
  • 招待講演
• [学会発表] 脂肪細胞における新規エピゲノム制御機構 (2015)
  • 著者名/発表者名: 稲垣毅、阿部陽平、Rozqie Royhan、松村欣宏、川村猛、仲木竜、鶴谷悠也、谷村恭子、田中十志也、児玉龍彦、油谷浩幸、酒井寿郎
  • 学会等名: 第５２回日本臨床分子医学会学術集会
  • 発表場所: 京都みやこめっせ (京都府)
  • 年月日: 2015-04-11
  • 招待講演
• [備考] 稲垣毅 東京大学代謝医学分野酒井研究室
  • URL: http://www.mm.rcast.u-tokyo.ac.jp/member/inagaki.html
• [備考] 東京大学先端科学技術研究センター 研究者プロフィール
  • URL: http://www.rcast.u-tokyo.ac.jp/ja/people/staff-inagaki_takeshi.html
• [備考] LSBM 稲垣毅
  • URL: http://www.lsbm.org/staff/inagaki.html