研究課題/領域番号 |
25640099
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
浅川 修一 東京大学, 農学生命科学研究科, 教授 (30231872)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | ゲノムシーケンシング / ハプロイドゲノム / 雌性発生 / ダブルハプロイド / トラフグ / ニジマス / ブリ / 連鎖地図 |
研究概要 |
申請者らは本研究を遂行するため、4年前より予備的な準備を進め、2011年には秋田県で得たトラフグ1個体より、多数の雌性発生個体を得ることができた。しかし、雌性発生トラフグを安定的に作出するため、25年度は成功のケースの条件、あるいは若干の条件変更を行なって、複数のメストラフグから得た卵を用いてその作出を試みたが、成功には至っていない。したがって、1回の成功例は稀なケースであり、通常その作出は困難であると考えられた。そこで本研究では、2011年度に成功したトラフグを材料に、ゲノムシーケンシングを行い、通常の二倍体ゲノムのトラフグを用いた場合と、シーケンシングの結果を比較した。まずシーケンシングに用いた2個体の雌性発生トラフグは、各染色体上の2、3個のマイクロサテライトマーカーを用いてすべての染色体についてホモ接合性を検証したが、全てマイクロサテライトマーカーで1個の多型ピークのみであり、ホモ接合していることが示されている。さらにそのうち1個体はSNPを用いたゲノムワイドタイピングによっても完全なホモ接合が示されている。 このような、完全にホモ接合をしている雌性発生トラフグ2個体、および、通常の二倍体ゲノムをもつトラフグ2個体のゲノムDNAを出発材料に、Illumina HiSeq2000によるペアエンドシーケンシングを行い、Soapdenovoを使ってアセンブルを行なった所、雌性発生トラフグ2個体に関して、シーケンシングによって得られた連続配列の長さを評価するコンティグのN50値は、通常のトラフグのN50値の約5倍という著しい改善がみられた。さらのScaffoldのN50や最大コンティグ長においても雌性発生トラフグの方が圧倒的に良いスコアを示した。このことから雌性発生個体のゲノムをシーケンシングの出発材料とすることは極めて有効であることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要で記述したように、雌性発生トラフグ2個体、および、正常トラフグの同一条件でのシーケンシングと結果比較から、パプロイドゲノムをもつ個体のシーケンシングは極めて有効であることを示すことができた。これらの手法は雌性発生や、同様の手法が適用可能なすべての動植物の新規シーケンシングにとって有効であると考えられ、今後の各種生物のゲノム解析にとって一般的な手法となりうることが期待される。また、雌性発生などの手段でなくても、何らかの手法でハプロイドゲノム得られれば、それらを用いてシーケンシングを行なうことの有効性を示す結果である。本研究はそれらのことを具体的なデータとして示すことができたが、そのことは今後の新規ゲノムシーケンシングに対して重要な示唆を与えるものである。
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今後の研究の推進方策 |
研究実績の概要で記述したように、トラフグにおけるこれまでの雌性発生作出の試みは1回しか成功しておらず、孵化個体を得るのは容易ではない。しかし、孵化個体が得られないとしても、発生が進み、ある程度まで成熟した胎仔を得ることは比較的容易である。また、ニジマスやブリでは容易に半数体の胎仔を得ることができている。これらの胎仔から得られるDNAは量的には少量であるが、Illuminaでのゲノムシーケンシングの基本的なプロセスであるPaired-endシーケンシングを行なうには十分なDNA量である。本研究ではニジマスやブリにおいてもPaired-endシーケンシングの結果を検証する。 本研究のもう一つの目的である連鎖地図作製であるが、トラフグではすでに得られたている胎仔と本年度作出する胎仔を活用しながら推進する。またすでにニジマス、トラフグで雌性発生胎仔を多数得ており、それらを用いて連鎖地図作製も進める。実験的にはこれらの胎仔ゲノムに対してマルチプレックスシーケンシングを行い、SNPタイピングを行なって連鎖地図作製を推進する。
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