多能性幹細胞からin vitroで臓器を作製することは再生医療の実用化を推進するため重要な目的である。しかし、組織を構成する細胞の多様性や3次元構造の再現は非常に困難である。そこで、CRISPR/Cas法によるゲノム編集とiPS細胞による胚盤胞補完法を活用し、将来的にブタ生体内にヒト臓器作製を目的として、iPS細胞由来の臓器・器官作製の基礎技術開発をマウスで行った。本研究において、CRISPR/Cas法によりFGF10ノックアウトマウスの作製を行った結果、四肢欠損のノックアウト個体を作製することに成功した。そこで、EGFPを発現するマウス多能性幹細胞をFGF10ノックアウトマウスの胚盤胞へ注入し、マウスーマウス同種間のキメラ作製を試みた。得られた新生仔を解析した結果、iPS細胞の寄与が確認されたFGF10ノックアウトマウスにおいて一様にEGFP蛍光を示す四肢が形成された。本研究では、遺伝的に四肢を欠損したマウスの胚盤胞に多能性幹細胞を注入する胚盤胞補完法によりin vivoで多能性幹細胞に由来する四肢が作製可能であると示された。また、CRISPR/Cas技術の有効性は、培養細胞においても遺伝子改変ができる点にある。例えば、遺伝的要因で疾患のある患者から体細胞を取ってきてヒトiPS細胞を樹立した場合、遺伝性疾患の原因となる遺伝子異常は、iPS細胞においても保持されているため、その原因遺伝子の変異をCRISPR/Casにより挿入(ノックイン)、置換(ノックイン)することで正常な遺伝子に置き換え、正常なiPS細胞を得ることが必須である。現在、コオロギ胚を用いてノックインに成功しており、今後このノックイン技術を応用することで作製された正常iPS細胞から異種間臓器・器官作製を行い、移植や直接体内に投与することで遺伝性疾患治療の発展に繋がると予想される。
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