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2013 年度 実施状況報告書

原生動物との共培養下で分離可能となる難培養性細菌の探索

研究課題

研究課題/領域番号 25640118
研究種目

挑戦的萌芽研究

研究機関東京農工大学

研究代表者

多羅尾 光徳  東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (60282802)

研究期間 (年度) 2013-04-01 – 2016-03-31
キーワード微生物保全 / 生物多様性 / 微生物多様性 / 異種間相互作用 / 原生生物
研究概要

1. 原生生物の細胞外分泌物で集積培養される細菌群の探索
中央をメンブレンフィルターで隔てた二槽培養器を用い3つの培養区を設定した。①一方の槽に淡水環境から採取した細菌群集を,もう一方にモデル原生生物(繊毛虫,Tetrahymenathermophila)を接種した培養区。②細菌群集と原生生物を混合した培養区。③細菌群集のみを培養した培養区。これら培養区から適宜,細菌DNAを抽出し,PCR法にて16srDNA領域を増幅した。変性剤濃度勾配ゲル電気泳動(DGGE)法により,増幅したDNAを塩基配列の違いに基づいて分離し,細菌群集構造を解析した。この結果,細菌群集の種多様性は②>③>①の順に高かった。この結果から,細胞外分泌物によって生育がむしろ阻害される細菌種が存在すると考えられた。また,細菌の種多様性は原生生物の捕食作用により維持されている可能性が示された。なお,興味深いことに,①と②の培養区においては細菌は肉眼で用意に観察できるほどのフロックを形成した。
2. 原生生物の細胞外分泌物を含む平板寒天培地にて集落形成能を有する細菌の分離・培養
モデル原生生物を純粋培養した培養液を用いて作成した平板寒天培地に淡水環境から採取した試水を塗抹し,集落を形成した細菌を分離・培養した。系統解析を行った5株はいずれも既知の細菌と96%以上の高い相同性を示した。しかし,うち1株はシベリアのアルカリ性湖沼からの単離例のみが報告されている細菌であった。また,この細菌は,原生生物の細胞外分泌物を含む平板寒天培地においては赤色の集落を形成するが,細胞外分泌物を含まない平板寒天培地においては集落を形成しなかった。したがって,細胞外分泌物を含む平板寒天培地を用いることにより,これまで分離・培養に成功しなかった新奇細菌を獲得できることが期待される。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

1. 細胞外分泌物が難培養性細菌の分離を可能とする可能性を見出した。分離・培養に成功した細菌は,細胞外分泌物を含む平板寒天培地では集落を形成する一方,含まない平板寒天培地では集落を形成しなかった。このことは,従来の方法では分離・培養できなかった細菌を,細胞外分泌物を含む平板寒天培地を用いることで分離できる可能性のあることを示す。今後,さらに細菌株の分離数を増やし,未知の細菌を獲得することを目指す。
2. 原生生物の細胞外分泌物および捕食作用が細菌群集の構造に影響を及ぼすことを見出した。特に,細胞外分泌物によって生育がむしろ阻害される細菌種が存在する可能性が示されたことは,当初の予想とは反する意外な結果であった。また,原生生物の捕食圧があるもとではむしろ細菌群集の多様性が増加したことは,捕食者の存在が生態系における種多様性を維持しているとする,高等生物の生態学において得られている知見と類似しており,きわめて興味深い。本研究の目的は難分解性細菌を分離・培養することであるが,微生物生態学の見地からも,これら結果から意義ある成果を得られることが期待できる。
3. 細胞外分泌物が細菌の生理活性に影響を及ぼすことを見出した。二槽培養器を用いた実験より,原生生物の細胞外分泌物は細菌のフロック形成を促進する可能性が示された。また,分離に成功した細菌のうち1株は細胞外分泌物を含む液体培地では赤色を呈したフロックを形成するが,含まない液体培地では増殖はするものの赤色は呈せず,フロックも形成しなかった。これらの結果は,細胞外分泌物が細菌の生理・代謝に影響を及ぼすことを強く示唆する。自然界において細菌が発揮している生理・代謝機能は,純粋培養系を用いた研究では必ずしも明らかにできないことを示す現象であり,微生物生態学・生物地球化学の見地から意義ある成果と考える。

今後の研究の推進方策

1. 分離された細菌の細菌学的特徴の解明:平成25年度に分離した細菌株の系統解析を行う。細胞外分泌物の有無により,細菌の生理・代謝が異なるか,明らかにする。
2. 細胞外分泌物を含む平板寒天培地にて集落形成能を有する細菌の分離・培養:平成25年度に引き続き,細胞外分泌物を含む平板寒天培地上にて集落形成能を有する細菌株を分離・培養する。平成25年度は培地の固化剤として寒天を用いたが,平成26年度はgellangumまたは,セルロースプレートに浸潤させて作成した固形培地も用いることを検討する。
3. 細胞外分泌物で集積培養される細菌群の探索:二槽培養器を用いた実験においては,対象とする細菌群集の数を増やし,細胞外分泌物で集積される細菌群を探索する。また,用いる原生生物をT. thermophilaに限らず,複数種の原生生物を用いる。細菌群集の種構成を,細菌遺伝子の16SrRNA領域をターゲットとするPCR-DGGE法を用いて解析する。この実験の意義は以下の点にある。すなわち,本研究においてかりに難培養性細菌の分離に成功するに至らないとしても,原生生物との共培養下において特異的に反応する細菌群が存在することを,培養法に依存することなしに示すことができることである。難培養性細菌の分離という当初の目的は達成できなくとも,「食う-食われる」の関係以外の,細菌と原生生物との間のまだ知られていない相互関係を明らかにし,微生物生態学に新たな知見を提供することが期待できる。
4. 細菌の保存方法の検討:分離された細菌は細胞外分泌物を生育に必要とすると想定されるため,細胞外分泌物を含む固形培地,またはグリセロール溶液における凍結保存,あるいは微生物プリザによる乾燥保存が可能か検討する。これらの方法で細菌が保存できない場合には,室温における液体培養や,定期的な植え次ぎを繰り返すことなどの方法も検討する。

次年度の研究費の使用計画

本研究で使用する二槽培養器は市販されておらず,特注で製造を依頼する。発注をしてから納品されるまでに数ヶ月の期間を要する。本課題研究を開始した当初は,計画の上では十分な数の培養器を確保していた。しかし,課題の進展にともない,培養区を増やす必要が生じたこと,および実験中に破損したことの理由により,当初確保した培養器が不足したため,追加で発注する必要が生じた。納品が平成25年度内に間に合わなかったため,次年度に納品されることとなった。
前年度に発注した二槽培養器は平成26年度に納品されることが確定しており,その支払いに充てる。

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公開日: 2015-05-28  

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