これまでの本研究により、イネの種子寿命には明らかな品種間差があり、またこの形質には胚のRNAの安定性が関わることを明らかにしてきた。特に、寿命の短い「ササニシキ」を遺伝的背景にもち寿命の長い「ハバタキ」の染色体断片置換系統群(CSSLs)を用いた解析から、「ハバタキ」の第2、第3、第7染色体に種子の寿命を制御する遺伝子があることが示された。また、世界のイネコアコレクションの中に種子寿命に関する有用な遺伝資源となり得る品種を複数見出している。これらのことを踏まえて、平成27年度は以下の研究を実施した。 1. 染色体断片置換系統群の中で「ササニシキ」よりも有意に種子寿命が長かった系統を「ササニシキ」に戻し交雑して、種子寿命に関わる有用遺伝子の存在する染色体領域の絞り込みを行った。しかしながら、平成27年度終了時点では遺伝子の特定には至っていない。現在継続した解析を実施している。 2. 生産年度や栽培地の異なる世界のイネコアコレクションの種子を用いて、安定して種子寿命を長く維持できる品種の特定をおこなった。その結果、日本型品種の「Tupa 729」が有用遺伝資源となり得ることが明らかになった。またインド型品種の中にも安定して種子寿命を長く維持できる系統を複数見出した。 3. 種子の寿命には胚のRNAの安定性が関わることを示してきたが、発芽能が消失した種子では可溶性画分のタンパク質の安定性も関わることが示された。これらのタンパク質は種子保存期間に不溶化することが示唆された。 以上の研究を通じて、RNAに加えてタンパク質の安定性が種子寿命に関わることが明らかになるとともに、これらの形質は遺伝的に改善できることが示された。挑戦的萌芽研究で得られた成果を基盤として、イネ以外の作物も含めた種子の寿命の改善に向けた研究を開始している。
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