研究課題/領域番号 |
25650002
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
桂 進司 群馬大学, 大学院理工学府, 教授 (10260598)
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研究分担者 |
大重 真彦 群馬大学, 大学院理工学府, 准教授 (00451716)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 超らせん / DNA2次構造 / DNA複製制御 |
研究実績の概要 |
DNAの負の超らせんはバブル構造、十字構造、Z型DNAなどの非B型構造を誘導することが知られており、転写やDNA複製などのDNA代謝の反応に関与することが示唆されている。しかしながら、電気泳動などの多分子解析法では分子の平均的な挙動しか解析できないために、DNA代謝反応における負の超らせんDNAの生理学的役割について極めて限られた知見のみしか得られていないのが現状である。そこで、本研究では個々のDNAへ負の超らせんを導入しながらDNAの構造変動や代謝過程の1分子解析を試みた。具体的には、微細流路装置と磁気ピンセットを組み合わせたDNA形態制御装置を開発し、蛍光顕微鏡によるイメージングを組み合わせることで、負の超らせんDNAの構造変動について解析した。その結果、負の超らせんを導入したλDNAとSV40(Simian virus 40)の複製起点領域をクローニングしたλDNAのSV40ori-λDNAでは、局所的な開裂が蛍光Replication Protein A(RPA)結合による蛍光輝点として観察され、それらの輝点の位置はDNA複製起点のA+T-rich領域と対応することが明らかになった。 既存の文献においてもDNAの負の超らせんによるDNA複製起点の局所的な開裂はDNA複製開始の制御に関与することが示唆されているので、DNA複製開始制御における負の超らせんの生理学的役割についてさらなる解析を進め、本年度はSV40ori-λDNAを用い、SV40巨大腫瘍抗原(SV40-TAg)による複製起点配列特異的なDNA解鎖に対して負の超らせんを与えたときの影響を蛍光RPAによる観察により解析した。その結果、DNAへ負の超らせんを導入することにより、SV40-TAg依存的なDNA解鎖が強く促進されることが明らかになった。現在、これらの研究結果を学術論文としてまとめている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成25年度から平成26年度途中までは微細流路装置と磁気ピンセットを組み合わせたDNA形態制御装置を開発し、蛍光顕微鏡によるイメージングを組み合わせることで、負の超らせんDNAの構造変動について明らかにした。具体的には、λDNAとSV40ori-λDNAでは負の超らせんの導入により1本鎖領域が誘導され、その領域は各々の複製起点のA+T-rich 領域付近であることが明らかになった。また、その負の超らせん導入によるλDNAとSV40ori-λDNAの複製起点への局所的な開裂は負の超らせん密度を増加することで輝点の存在確率もそれぞれ上昇することが明らかになった。これら研究成果は分析化学部門で権威があるAnalytical Chemistry(ACS)誌にて掲載された。 また、DNA複製開始制御における負の超らせんによる生理学的役割についてさらなる解析を進めるため、平成26年度ではSV40ori-λDNAへ負の超らせんを与えたときのSV40-TAg依存的なDNA解鎖の影響について解析を行った。具体的には、負の超らせんを導入したSV40ori-λDNA において、SV40-TAg依存性DNA解鎖により得られた1本鎖領域を蛍光RPAにより標識し、蛍光観察により解析した。興味深いことにSV40-TAg依存的なDNA解鎖は負の超らせんの導入により促進されることが明らかになった。現在、これらの研究結果を学術論文にまとめている。本研究にて開発したDNAへ負の超らせん形態を導入しながらDNA代謝過程を1分子イメージングにて解析する技術は、先駆的な解析技術として世界の研究に対して大きなインパクトを与えることができると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度には、本研究で開発した微細流路装置と磁気ピンセットによるDNA形態制御装置及び蛍光顕微鏡によるイメージングを組み合わせた1分子解析技術を適用することにより、DNAに負の超らせんを導入することによりSV40-TAg依存的なDNA解鎖は強く促進されることが明らかになった。この結果に基づき、真核生物系の異なる生物種のDNA複製開始について負の超らせん状態がどのように生理学的役割において影響を与えるのかについて、引き続き、1分子レベルで解析を進めていく。これまでの多分子解析によっても、真核生物である出芽酵母、分裂酵母、ショウジョウバエ、後生動物のDNA複製開始において、DNAへ負の超らせんを導入ときにDNA複製の開始が促進されることや複製起点の決定などに関与する可能性があることが示されている。しかしながら、多分子解析では様々な超らせん状態のDNAが解析の対象となってしまうために、負の超らせんDNAにより促進されたDNA複製開始の詳細な情報は覆い隠されてしまうと考えられる。そこで、本研究にてこれまでに遂行してきた1分子解析技術を適応することで解析を進めていく。 具体的な生物種において、既に報告がなされている真核生物の出芽酵母、分裂酵母、ショウジョウバエ、ヒトなどから遂行していくことを考えている。特に、ショウジョウバエやヒトの自己複製配列は未だ定められていないため負の超らせんがDNA複製起点に対してどのような影響を与えるのか、負の超らせん状態がDNA複製開始決定ポイントとしての因子となりうるのかを慎重に検討をして行く予定である。そのために、まずDNA複製起点となり得る遺伝子のλDNAへクローニングやDNA複製開始に必要な因子の調製を進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度の研究の推進のために必須な負の超らせん導入によるDNA2次構造変動解析を進めたために、一部の研究費を次年度に繰り越した。
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次年度使用額の使用計画 |
昨年度から繰り越された予算も活用し、SV40 in vitro複製系の複製開始制御において、負の超らせんが果たしている役割を解析する。
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