研究課題
挑戦的萌芽研究
本研究のテーマである”哺乳類細胞の浸透圧応答の分子基盤解明を目指したゲノムワイドRNAiスクリーニング”の達成に向けて、本年度はスクリーニングにより既に得られている候補分子の解析を進めた。我々が世界に先駆けて同定し、解析を進めているASK3の浸透圧依存的活性変化を指標にしたユニークなスクリーニングにより、これまでに哺乳類細胞において高浸透圧応答に関わると考えられるタンパクが複数得られている。この得られたタンパクのうち、ASK3の脱リン酸化を担うフォスファターゼに着目して解析した。まず、このフォスファターゼが直接ASK3を脱リン酸化するかについて確認をした上で、どのようにして高浸透圧というストレス時にASK3の脱リン酸化を促進するかについて解析した。様々な解析の結果、高浸透圧ストレスによりこのフォスファターゼとASK3の結合が促進されることを突き止め、高浸透圧特異的なASK3脱リン酸化のメカニズムの一端を明らかにした。また、この結合促進はASK3のファミリー分子であるASK1では観察されず、ASK1とASK3の高浸透圧ストレス応答性の違いを説明する手がかりになると考えられた。既に浸透圧ストレス時にASK3が制御することを明らかにしているWNK1-SPAK/OSR1経路に対して、このフォスファターゼの欠損も影響を与えることを確かめており、このフォスファターゼによるASK3の制御が高浸透圧時のシグナル伝達に関わることを明らかにした。これまでスクリーニングで得られた他のタンパクと、このフォスファターゼとの関係を解析中であり、このようなタンパク間の相互関係を解き明かすことで、高浸透圧ストレス時の細胞内のシグナル伝達ネットワークや浸透圧センサーの同定に至ることができると考えている。
1: 当初の計画以上に進展している
当初の計画では今年度内はASK3不活性化制御分子の同定までの予定であったが、同定したタンパクのうちフォスファターゼについて詳細な解析を進めることができた。同定したタンパクとASK3との分子間の解析は来年度に予定していた項目であり、これについて前倒しで研究が進んでいることになる。今年度に予定していた同定したタンパクが高浸透圧で働くシグナル伝達経路に影響を与えるかについて、すでに同定したフォスファターゼを含めたいくつかのタンパクがASK3と同様にWNK1-SPAK/OSR1経路に影響を与えることを確かめており、順調に研究が進んでいる。さらに、本研究の計画では高浸透圧ストレスにおけるASK3を指標としたスクリーニングに限定していたが、低浸透圧ストレスにおけるASK3の活性変化を指標としたスクリーニングも既に開始し、順調に進行している。このことは、我々が構築したスクリーニング系が容易に他のスクリーニングに応用可能であるという汎用性を持つことを示しており、構築したスクリーニング系の有用性を示すという点でも当初の計画以上に進展している。
現在までに実施したスクリーニングにより、計画通り高浸透圧ストレス時のシグナル伝達に関わると考えられるタンパクが複数得られている。今後は今年度解析したフォスファターゼを含めてこれらのタンパクの相互関係を解析していく。本研究のスクリーニングでは細胞の高浸透圧受容を担う分子から、ASK3の脱リン酸化(不活性化)までのシグナル伝達を担う分子が得られるはずであり、既に解析を行ったフォスファターゼはいわばASK3のすぐ上流の直接の制御分子と考えることができる。例えば、このフォスファターゼが高浸透圧ストレスでASK3との結合を促進させるために必要なタンパクを、スクリーニングで得られた候補分子の中から同定することで、このシグナル伝達のより上流で働くタンパクを明らかにできると考えられる。このようにして順次シグナル伝達を上に遡って明らかにすることで、最終的に高浸透圧ストレスを直接感知する”浸透圧センサー分子”に辿り着くことを目標に研究を進める。また、高浸透圧ストレスだけでなく、逆の低浸透圧ストレスのシグナル伝達を担うタンパクもASK3の活性を指標に探索でき、実際にそのスクリーニングも開始している。このように今後得られる低浸透圧のシグナル伝達分子の情報も合わせて、細胞の浸透圧ストレス応答の分子機構全体について明らかにすることを目指す。
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