本研究は、ゲノムDNA上の特定の領域を生細胞で可視化する新しいプローブを開発し、細胞分化過程における特定の遺伝子領域のエピジェネティクス動態を観察することを目的としている。これまで内在ゲノム領域を可視化する目的で、任意の中程度反復配列を認識するTALEsプローブの作製を試みてきたが、生細胞内で特異的に機能するものは未だ得られていない。また、生体内でのゲノム可視化のために、ゼブラフィッシュを用いた系の検討も行った。平成27年度は、Kerstin Bystrichy博士(トゥールーズ第三大学)との共同研究により、ANCHORシステムを用いた特定遺伝子座のライブセルイメージングと併せて、転写活性化の可視化を試みた。ANCHORシステムとは、グラム陰性菌Burkholderia cenocepacia J231のDNA結合蛋白質ParBとその標的配列である約1kbのparS(INT)との結合を、ヒト培養細胞に導入したシステムである。ANCHORシステムにはさらに、MS2/MCP (MS2 coat protein)による転写産物の可視化系も組み込まれている。本研究では、ヒト乳がん細胞MCF7のエストロゲン応答遺伝子の転写活性化を、翻訳後修飾特異的抗体由来プローブによる可視化系(Fab-based Live Endogenous Modification Labeling; FabLEM)を用いてライブ観察した。その結果、転写の活性化に伴いH3K27ac特異的プローブがエストロゲン応答遺伝子座に集まる様子が観察できた。一方で、活性化型RNAポリメラーゼⅡの集積の有無は、解像度が低いため判別が難しかった。今後STORM等を導入することにより、より解像度の高いライブイメージングを行う予定である。
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