研究課題
挑戦的萌芽研究
DNA複製はゲノムの安定な維持継承に必須であり、細胞周期やクロマチン構造によって巧妙に制御されている。複製開始反応では、複製因子がサイクリン依存キナーゼ(CDK)とDbf4依存キナーゼ(DDK)によってリン酸化されることにより、活性化される。よって、キナーゼが付与したリン酸基が除去される場合には複製開始反応が抑制されるのではないかと考えられる。リン酸基を除去する酵素活性を持つフォスファターゼには、細胞分裂をはじめ多様な反応に必要なフォスファターゼであるPP2A, PP1などが知られているが、複製制御に関与するかどうかは不明である。本研究では、分裂酵母を用いて、最近開発した植物ホルモンオーキシン添加によりタンパク質を選択的に分解するオーキシンデグロン(AID ; auxin-inducible degradation)系を用いて、G1期あるいはS期に特定フォスファターゼを細胞から完全に除去し、複製とその関連反応への関与を明らかにする。とりわけ、近年の解析から複製開始タイミング制御にテロメア結合因子Taz1, Rif1が関与することを示しており、これらの因子とフォスファターゼの関連を明らかにすることができれば、テロメア長制御と複製制御における新たな仕組みが提示されることとなる。
2: おおむね順調に進展している
主要なフォスファターゼである、PP2Aは複製タイミング制御への関与が示されているShugosinタンパク質との相互作用が想定され、複製制御への関与を解析した。PP2A構成因子である、Par1, Par2, Ppa1, Ppa2の遺伝子単独破壊や条件的二重破壊株において、複製タイミングの異常は観察されなかったことから、PP2Aの複製制御に関与するという根拠は得られていない。いっぽう、PP1には2つのホモログが存在するため、Sds21遺伝子破壊株においてDis2をオーキシンデグロン系で分解すると、後期複製開始点のタイミングが部分的に早期に変化した。よってPP1が複製タイミング制御に関与する可能性が示唆された。
PP1活性は生存に必須であり、Sds21, Dis2両遺伝子を破壊することができない。またオーキシンデグロンによる分解を効率よく行うとM期を脱出でき図、複製反応への関与を解析することが困難である。PP1はテロメア結合因子Rif1と相互作用することが報告されており、この相互作用をRif1あるいはSds21の点突然変異により減少させることにより、細胞の生存を維持する条件で解析を行う。また、テロメア長制御におけるPP1の役割を明らかにし、複製開始制御とテロメア長制御のクロストークのしくみと意義を明らかにする。
フォスファターゼ遺伝子の多重変異株の作成が予定したより困難であり時間がかかってしまい、当該年度中に予定していた高速シーケンサーを用いたゲノムワイドの複製解析を実施することができなかった。このため、塩基配列解析の委託費用など予定していた予算を使用できなかったため、実支出額が予定を下回った。フォスファターゼ遺伝子の多重変異株の作成に目処がついたため、次年度に大容量シーケンサーを用いた複製解析を実施する予定であり、研究計画を遂行することができると考えている。
すべて 2013 その他
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Mol. Cell. Biol.
巻: 33 ページ: 1175-1187
10.1128/MCB.01713-12
http://www.bio.sci.osaka-u.ac.jp/dbs01/re-paper-temp.php?id=14
http://www.bio.sci.osaka-u.ac.jp/bio_web/lab_page/masukata/thesis/index.html