研究課題
筋小胞体膜上に存在するリアノジン受容体は、加齢に伴う活性酸素増加によって損傷し、この受容体の安定化蛋白質であるFKBP12が受容体から解離することにより、Ca2+の漏出がおこるというモデルが提唱されている。また、近年、損傷した受容体とFKBP12の再結合を促す薬剤S107が見出された。そこで、本研究では、In-cell NMR法と従来のNMR法を併用し、FKBP12によるリアノジン受容体の安定化機構を解明することを目的とした。しかし、標的蛋白質を筋芽細胞へ導入方法の確立に難航し、さらにこの課題を実施する上で必要な薬剤S107が特許・創薬開発のため、入手できなかった。そこで、当初の研究計画を変更し、筋小胞と同様に加齢によるCa2+漏出がおこり、サルコペニアの原因となるミトコンドリアのCa2+漏出に着目し、Ca2+取り込み制御に関わる蛋白質複合体(HAX-1とUCP3)を対象とした相互作用解析を行った。これまでに、HAX-1とUCP3の相互作用領域がそれぞれC末端側領域と膜間ループ2領域であること及び両者の結合にはCa2+の存在が必須であること明らかにしている。また、HAX-1のC末端側領域に関しては、Ca2+と直接結合すること及びその結合により大きな構造変化が誘起されることを明らかにした。当該年度は、HAX-1のUCP3結合領域とUCP3のループ2領域のNMR滴定実験及びシグナル帰属のための三重共鳴実験を行った。三重共鳴実験では、シグナルの縮重・消失により、全ての主鎖のシグナル帰属はできなかったが、Asp221及びGlu225等の酸性残基がCa2+との結合に関与している可能性が示唆された。一方、UCP3のループ2との相互作用領域は、Ca2+結合領域とは異なる可能性が示唆された。また、研究を行う過程で、HAX-1は、膜に直接結合する性質を持つことが明らかになった。
4: 遅れている
初年度から、標的蛋白質を筋芽(C2C12)細胞へ導入方法の確立に難航し、この研究を行う上で重要な薬剤S107も特許・研究開発のため入手できなかったことから、研究計画を変更せざるをえなくなり、筋小胞体と同じカルシウム漏出がおこるミトコンドリア内のカルシウム取り込みに関わる因子(HAX-1, UCP3)の構造生物学的研究を行った。当該年度は、HAX-1(211-280)とUCP3のループ2合成ペプチドとのNMR滴定実験及びシグナル帰属のための三重共鳴実験を行い、HAX-1のカルシウム結合領域及びUCP3のループ2との相互作用面の推定を行った。また、研究を行う過程で、HAX-1のUCP3結合領域は膜に結合する性質があることを明らかにした。予定では、これらの解析に加え、生きた細胞内での両者の相互作用解析を行う予定であったが、検討する時間が十分にとれなかった。理由としては、育児休暇による研究中断があったこと及び研究開始後も搾乳のための育児時間を取得していたため研究の進行が遅れたことがあげられる。したがって、「遅れている。」と判断した。
研究計画の変更に伴い、平成28年度も引き続きNMR及びIn-cell NMRによるHAX-1及びUCP3の相互作用解析を進める。HAX-1の三重共鳴実験に関しては、NMR測定条件の最適化や天然変性蛋白質の連鎖帰属に用いられる測定((HN)CO(CO)NH, (H)N(COCO)NH等)を行うことにより、帰属がついていないシグナルの帰属を完了し、UCP3結合領域を明らかにする。さらに、生きた細胞内での両者の相互作用の検出を目指す。
昨年度は、育児休暇による研究中断があったこと及び研究開始後も搾乳のための育児時間を取得していたため、研究に必要な試薬が予定より少なくなったこと及びNMR測定や研究打ち合わせのための出張ができなくなってしまったため、938,442円が繰り越しとなった。
次年度の研究費は、標的蛋白質を標識するための安定同位体及び細胞培養・大量調製に必要な試薬類の購入に使用する。高磁場NMR装置の利用及び研究打ち合わせのために、医薬基盤・健康・栄養研究所や京都大学工学研究科での測定のための出張費に使用する。また、得られた研究成果を国内の学会で発表する。
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