本研究は、生体中に存在する結晶性物質であるバイオミネラルに特異的に結合するタンパク質の機能を解析し、高機能化することを目的とする。そのために、バイオミネラルへの結合機構を明らかにするとともに、結合部位の改変によって結合能の向上したタンパク質を創出することを目標とする。本年度は、膵臓結石の主成分である炭酸カルシウム結晶に結合し、成長を阻害するタンパク質であるリソスタシンを対象として、バイオミネラル結合部位に存在する残基の役割を解析した。また、これらの残基を別のタンパク質に導入することによって、炭酸カルシウム結晶結合機能を付加したタンパク質の創出を試みた。前年度の研究によって、バイオミネラル結合部位はリソスタシン分子の中央部の表面に存在していることがわかっている。この領域には、酸性アミノ酸残基が偏在しており、負の表面電荷が結合に関与していると仮定し、これらの変異体を作成した。酸性アミノ酸をアラニンに置換した変異体では、炭酸カルシウム結晶への結合能が著しく減少した。一方、酸性アミノ酸をアスパラギンおよびグルタミンに置換した変異体では、結合能はほぼ野生型と同じであった。このことから、リソスタシンの炭酸カルシウム結晶との結合には分子表面の電荷とともに分子表面の形状が関与していると考えられた。次にリソスタシンのバイオミネラル結合部位に存在する残基を、リソスタシンと類似した構造を有する不凍タンパク質に導入した。不凍タンパク質の機能部位はリソスタシンのバイオミネラル結合部位とは異なる領域に存在する。得られた変異体は、炭酸カルシウム結晶に対する結合能を獲得したが、不凍機能が大きく低下していた。これは、変異導入による立体構造の変化が顕著であったためであると考えられる。今後は、変異導入の立体構造に対する影響を考慮することで、リソスタシンの機能と不凍機能を保持した変異体の創出を目指す。
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