研究実績の概要 |
リボヌクレアーゼH2 (RNase H2)は、二本鎖DNA中に存在する単一リボヌクレオチド (rNMP) を認識・切断するRNA分解酵素であり、真核生物ではRNase H2A, B, Cの3つのサブユニットから構成される。申請者は、その活性サブユニットであるRNase H2Aを欠損するマウスを以前に作製した。本欠損マウスは、胎生10.5日頃に致死となるが、その原因は長らく不明であった。予備的解析の結果、その染色体ゲノム中にはrNMPが多数存在する可能性が示された。本研究では、RNase H2がリボヌクレオチド除去修復という新規の「ゲノム監視機構」を通じて、DNA修復・複製に関与していることを明らかにすることを目的とした。解析の結果、以下の事項が明らかとなった。 RNase H2A欠損マウス胚では、①Cyclin G1、p21、およびTrp53inp1などのDNA損傷応答遺伝子群の発現上昇が認められた。②RNase H2BおよびCサブユニットが著しく減少していたことから、3量体構造の形成は活性発現のみならず安定性維持にも不可欠であることが明らかとなった。③PCNAやFEN1およびDNA polymerase δなどの修復・複製関連因子の存在量に減少は認められなかった。 また、心筋細胞を欠損胚より調製・培養したところ、3週間以上拍動が継続した。したがって、RNase H2は細胞増殖には不可欠ではあるが、生存そのものには必須でないことが示唆された。 一方、ミトコンドリアDNA (mtDNA) 中には数多くのrNMPsが存在することから、RNase H2の欠損はmtDNAの複製には影響しないことが予想された。実際、mtDNAにコードされるCOX IやCOX IIを指標にして、ゲノム量、mRNA量、およびタンパク量を調べた結果、欠損マウス胚においても野生型と同レベルの存在が確認された。さらに、MitoTrackerを用いた染色や電子顕微鏡観察でも、ミトコンドリアに明確な異常は認められなかった。 以上の結果より、RNase H2複合体は染色体DNAの修復に関わっていることが明らかとなった。
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