研究課題/領域番号 |
25650032
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
長田 俊哉 東京工業大学, 生命理工学研究科, 准教授 (00201997)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 分裂酵母 / GPCR / リガンドセンサー / 創薬 / フェロモン |
研究実績の概要 |
分裂酵母に外来性GPCRを発現させて、リガンド応答を検出するためのレポーター株を構築した。これにより、創薬に結びつくリガンド検索を行うことや、リガンド既知の受容体に対するリガンドセンサーの開発が可能になる。分裂酵母には二つのGPCR経路があり、前回の報告で、接合フェロモンシグナル伝達経路の下流にGFPを置くことで、シグナルの定量的な評価が可能なアッセイが確立した。今回はグルコースシグナル伝達経路の下流にGFPを置くことで、二つ目のアッセイ系を確立した。分裂酵母はグルコースの認識をGit3というGPCRで行っている。Git3はGpa2というGタンパク質のαサブユニットと共役し、Cyr1を活性化することで細胞内のcAMPの量を増加させる。細胞内で増加したcAMPがPKAであるPka1を活性化する。Pka1によって抑制されるFbp1のプロモーターの下流にGFPを配置した株を作成した。Git3へのグルコース入力がない時にGFPが発現する。このため今回作成したグルコースシグナル伝達経路では、通常GFPを発現していて、シグナルを受け取ると、GFPの発現が押さえられる。 これらのレポーター株に外来性GPCRを機能的に発現させるため、分裂酵母フェロモン受容体(Mam2)に対してN末端キメラ体を作成し、フェロモンシグナリングアッセイを行ったところ、タグを付加したMam2キメラ体ではシグナルは維持しており、外来性GPCRに対してもタグ付加型の改変法が適していると考えた。 外来性GPCRのN末端にp3シグナル、C末端にGFPをつけて、蛍光量の測定を行った場合に、p3シグナルの有無で比べると、p3シグナル付きのキメラ体の蛍光量が増加していた。この蛍光量の増加は、分裂酵母由来の配列であるp3シグナルの存在により、小胞体への取り込みが行われやすくなったためだと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年の研究推進方策でMam2とGit3のハイブリッドタンパク質の作成を行うことを述べた。分裂酵母にあるGPCRはフェロモン系(Mam2など)がGpa1とグルコース系(Git3)がGpa2という具合に、それぞれのGαサブユニットと共役すると報告されている。Mam2とGit3ハイブリッドタンパク質を作成し、Gタンパク質との共役部位を特定することにより、外来性のGPCRが酵母のGタンパク質とうまく共役できない場合に備えて、外来性のGPCRと酵母のGPCRとのハイブリッドタンパク質を作るための基礎的データを集めるための実験計画であった。実際約10種類のMam2とGit3のハイブリッドタンパク質の作成を行って、Gタンパク質との共役部位特定を目指したが、この研究を通して、Mam2がGpa1だけでなくGpa2とも共役していることが確認された。本来の目的達成はできなくなったが、新たな発見をもたらした。 本プロジェクトではGPCR機能解析においてモデル生物として用いられる分裂酵母を異種発現の基盤とし、哺乳類GPCRを機能的に発現させるリガンド検索酵母及びバイオセンサー酵母の開発を目指している。前回と今回の研究により、分裂酵母の2つの経路(接合フェロモンシグナル伝達経路とグルコースシグナル伝達経路)の下流にGFPを置くことで、シグナルの定量的な評価が可能なアッセイを確立した。二つの経路についてリガンドアッセイ系を構築することにより、分裂酵母がより広範囲に外来性のGPCRのリガンドアッセイ系に使えるもとと期待される。残りの1年間で外来性GPCRの機能的発現を実現させ、本プロジェクトの目的を達成させたい。今までのところ順調にプロジェクトが進んでいると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
本プロジェクトのもっとも重要な課題であった分裂酵母の二つのGPCR経路についてリガンドアッセイ系を構築することに成功した。新年度の目的は外来性のGPCRを分裂酵母の細胞膜に機能的に発現させることである。 外来性GPCRの分裂酵母内での発現については、N端にP3シグナルを付加することにより細胞質から小胞体への輸送が効率的に行われることがほぼ確認された。さらに小胞体からゴルジ体、細胞膜への輸送を効率的に行うことが必要になってくる。これらの輸送は次のように行われると考えられている。 小胞体膜上、あるいは内部にある新規タンパク質は COPII小胞(coat protein complex II)という組織によって輸送される。COPII小胞とは球状のタンパク質複合体であり、小胞体膜上にある新規タンハク質を小胞体膜ごと出芽させることによって、新規タンパク質を内部に取り込み、標的の器官まで運ぶ役割を持っている。COPII小胞がタンパク質を取り込めるのは、新規タンパク質の輸送シグナルという配列が細胞質側に露出しており、この配列をCOPII小胞の構成因子が認識するからである。GPCR の輸送の場合、小胞体膜上ではN末端が小胞体内部、C末端が外部に露出している。つまり、細胞質側にはC末端と細胞内ループが露出しているので輸送シグナル配列はこの領域に含まれていることが予想される。こうした考え方をもとに、新年度は分裂酵母の GPCRであるMam2の輸送シグナル配列の特定を目指する。具体的にはMam2のC端や細胞内ループを部分的に欠損させたり、他のGPCRの配列と置換したりして輸送に重要な働きをしている配列を特定する。そしてこのシグナル配列を外来性GPCRに導入して、小胞体から細胞膜への移行を促進させる試みを行う。
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