本研究は、ストレス誘発性に核から細胞外に遊離する脳保護性のプロサイモシンα(ProTα)の作用機構解析を目的とした研究である。その特徴として、遊離する神経細胞をホスト細胞と位置づけ、レシピエント細胞への作用機構には受容体シグナリングと核内への再取り込み:核シャトル機構が存在するという点がある。本研究では、「核シャトルしたProTαは、レシピエント細胞の表現型をシンクロさせる力の因子である」との仮説を立て、その検証を行う。 1.細胞膜候補受容体TLR4/MD2との結合:これまでにProTαの受容体シグナルが自然免疫受容体(TLR4/MD2)―インターフェロン系であることを明らかとし、リガンドProTαと受容体TLR4/MD2との相互作用をバイオセンサーであるQCMで動力学的に計測すると共に、in silico解析にてその相互作用様式の予測を行ってきた。本年度は、ProTαの細胞外遊離担体であり、ProTαと共に細胞外遊離するS100A13がProTαのTLR4/MD2への相互作用能を増強させることを明らかとした。 2.ProTαの新規細胞膜受容体同定:Lipid Raft画分からProTα結合タンパク質を同定し、相互作用解析、受容体阻害実験によるProTαの神経保護効果消失を確認することにより、Gαi共役受容体シグナルを介する神経細胞死保護機構の鍵分子を明らかにした。 3.レシピエント細胞における細胞表現型解析:細胞外ProTαを即時に核内に取り込む細胞を用いてDNAマイクロアレイ解析を行った。興味深い事にレシピエント細胞群はケモカイン並びに、インターフェロン系シグナルが賦活化されており、これまでにin vivoにおける神経保護能に関与すると推測してきたシグナル群と高い一致を得た。 今後、多岐に渡るProTαの神経保護機構の全容を受容体機構、核シャトル機構の両面から明らかとしていく。
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