金ナノ粒子を作用起点に生体内(ウサギ)で抗ハプテン抗体の産生が確認された。しかし、その実態は不明であったため、金ナノ粒子が媒介する抗原提示機構を分子・細胞レベルで解明するための手法を開発した。同僚研究者の協力を得て、親水性を強めたアゾベンゼン化合物を合成し、最外殻がほぼ完全に親水性モティーフで被覆された金ナノ粒子の調製が可能となった。引き続き、他の低分子化合物、ナノ粒子キャリア候補の調製、滅菌操作手法等を検討し、一例として、磁性ナノ粒子の利用が可能であり、市販の抗体によって免疫生化学的に検出可能な実験系を構築した。 ニワトリ由来B細胞(DT-40)や、マウス由来のB細胞(BCL1 Clone CW13.20)、単球・マクロファージ(J774A.1)、濾胞星状細胞(pit/F1)を使い、細胞密度が~90%に達するまで培養し、免疫原のナノ粒子との相互作用を顕微鏡下で観察した。すると、ある時間域から生体膜小胞が急激に放出される現象に気づいた。この思いがけない発見は、近年、注目され、細胞間情報伝達を担っているエキソソームであることが判明し、それを視野に入れ、研究を拡張することができた。 培地上清からエキソソームを分画し、ナノ粒子を介した抗原情報の追跡、検出を可能とする手法を考案した。バイオマーカー(CD63等)を指標にエキソソーム陽性画分の同定は可能となったが、ハプテン抗原を提示しているMHC分子は、濃度、発現量が共に低いため優位な検出、確認には至っていない。 抗原を稠密に帯びたナノ粒子はマクロファージ等に貪食され細胞内消化を経て、エキソソームを介して免疫B細胞を活性化し、当該抗原に対する抗体産生につながったと解釈でき、人工的ナノ粒子が媒介する免疫原情報伝達スキームを描出することができた。全体を通しての検証と制御の可能性、また、任意の免疫原ナノ粒子に対して一般化できるか、今後の研究に期待したい。
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