研究課題/領域番号 |
25650047
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
樋口 秀男 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (90165093)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 量子ドット / 1粒子 / 非侵襲 / マウス |
研究概要 |
非侵襲で1粒子レベルで小胞輸送を観察するためには、計画にあるように明るい量子ドットをつくる必要がある。明るい量子ドットを作成するために、量子ドットを40 nM以下にして、これを液体窒素によって急速に冷却することで、数10個~数100個程度の量子ドットによる凝集体を形成することが明らかとなった。その他の方法も検討した。97℃で数分間加熱することによっても大きな凝集体を形成した。しかし、加熱によって個々のQDの蛍光強度は著しく(~1/100)減少することから、この方法は適していないものと考えた。三番目の方法はCOOH基を持つビーズにNH2コーティングされた量子ドットをクロスリンカー(EDC)によって架橋することによってもQD凝集体を作製することにも成功した。しかしこの場合、未反応のQDならびにビーズが多数混在しており、その後の精製が必要なだけでなく、非経済的である。 以上の方法によって得られた凝集QDの輝度、及び位置精度を測定すると、どちらの因子においても、急速凍結により作製した凝集QDが、最も優れていることが示唆された。 一方、マウスの非侵襲条件下において、量子ドットが生体内ではどの程度暗くなるかを、既知の明るさの蛍光粒子を耳に注入をして、蛍光強度計測を行った。その結果、蛍光強度は数十分の1に落ちることが明らかとなった。 一方、長波長のレーザー635nmにて量子ドットを観察したところ、蛍光強度が532nmにて励起した場合の2分の1程度に落ちてしまった。そこで、焦点を絞ったところ、数分の1程度まで強度が改善した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の研究予定は、マウスの耳の構造を知ること、波長の長いレーザーにて量子ドットを観察すること、多量子ドットを作成すること、レンズ倍率を落として強度を明るくすることであった。これらすべてをためすことができた。マウスの耳の構造を組織染色を行い、非下層の蛍光があること、軟骨層の蛍光がとても強いことが明らかとなった。波長の長いレーザーに関して実績の項に述べたように、635nmのレーザーは暗かった、これは量子ドットの吸収が低いことにおもに原因する。この問題点は、実際の非侵襲イメージグを行って、強度減少の程度を把握しなければならない。多量子ドットは10個程度の量子ドットが凝集した粒子をえることができた。レンズの倍率を40倍落としたところ、共焦点の穴のサイズに合わず、像が不鮮明になることが判明したので、倍率は60倍程度が最適であることがわかった。以上のように、研究の目的達成に向け、順調に進行をしている。
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今後の研究の推進方策 |
共焦点顕微鏡の像を明るくする方法として,高NA のレンズの倍率を下げる方法がある.これは,倍率が下がることで,ニポウ板の穴に対して,蛍光の集光点が小さくなる.したがって,焦点以外の部位の光も穴を通ることができる.この方法は,光学的切断面の厚さを厚くするため,バックグラウンドをあげる欠点がある.したがって,低濃度の量子ドット多量体を用いたときに有効である.最適化に最も時間を取ると考えられるので,最適化の検討を続行する.1 粒子の多量体量子ドットが見えてきたなら,マウスの非侵襲下で皮膚表面から遠くに位置する量子ドットを確認する. 多量体に好中球に対する抗体Ly6G を結合する.これを,尾静脈から注入して,耳殻の中の好中球に結合した量子ドットの蛍光を観察する.この量子ドットの蛍光強度から、単一多量体が複数含まれているか否かを決める。もし、複数含まれているなら、光学系の調整をもう一度やり直す。これを繰り返すことで、非侵襲マウス内で単一多量体を観察する系が完成する。 好中球膜状に結合した抗体1 分子―多量体量子ドット複合体の運動をイメージングして、軌跡を解析する。運動から拡散定数や特徴的内運動を見つける。そして、様々な状態の好中球上の、運動様式を見つけ出す。その状態とは、血管中、血管から抜け出して間質を動いている状態、患部を治癒する状態の好中球である。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究計画では、過去の生体の透過光強度(散乱を含む)と波長の関係をもとにすると,現在の532nm レーザーを利用するよりも,642nm レーザー(備品として購入予定であった75mW)を利用すれば,理論的に2-4倍程度の強度上昇が見込まれた. しかし、642nmレーザーよりパワーが低いが波長が近い研究室に現有の635nm(30mW)のレーザーを用いて、量子ドット(蛍光極大705nm)を観察したところ、532nmの30mWと同等程度の明るさより低いことがわかり、理論上求められた2-4倍の明るさが得られないことが実験的に確認された。したがって、購入予定であった、642nm(75mW、180万円)のレーザーおよび光学部品(24万)を購入しなないこととしたため、予算を次年度に繰り越すこととなった。 蛍光が暗いといった問題点は、532nmレーザーを集光することで、ある程度解決した。したがって、次年度は、多量体に好中球に対する抗体Ly6G を結合し,尾静脈から注入して,耳殻の中の好中球に結合した量子ドットの蛍光を観察し運動を解析する.この量子ドットの蛍光強度から、単一多量体が複数含まれているか否かを決める。マウスの実験を補助してくれる技術支援者を雇い、マウス内の好中球上の1粒子観察の実験を行う計画である。
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